15.魔女の娘
ルセロはいつだって己の行動を後悔している。
後悔しながらも立ち止まったりしないでひた走るのはそれはひとつの強さだろうが、この時も、やはり扉を開け放ってから後悔を覚えた。けれどもそのまま部屋に入る。
「‥‥あぁ」
そこには物言わぬ骸と、その傍らで震えながら血に濡れた短剣を構える侍女がいた。護衛はなかった。すでに護衛の意味はないけれど。
控える誰もいなくなったから姫君がそのようなことになったのか、それとも姫君がそのようなことになったから控える意味がなくなったのかどちらだろう。前者だとすればそもそも守る意思が弱かったとしか思えないし、後者であればこの震える侍女はどのような存在だろう。
侍女が姫君を刺したのかどうかは分からない。分からないが、その骸から引き抜いた剣を武器として構えることのできる程度には、姫君に対する忠誠心がないことは見て取れた。
「‥‥魔女の娘、か?」
「わたしのせいじゃない!」
ルセロが声をかけるのと、侍女が声を荒げるのと、同時だった。そしてどうしたものかと立ちすくむルセロの後ろから彼女がひょいと顔を出すのも。
「‥‥あーらら‥‥」
その光景を見て彼女が何を思ったのか、ルセロは知らない。けれど、呆れるようなその声が少しばかり震えていたのは分かった。分かって無視をした。
「‥‥剣姫っ?!守るんじゃなかったの?!」
血濡れた床に腰を下ろして、というよりはおそらく腰が抜けているのだろう、そのまま喚く侍女の声も無視してルセロは侍女に宣告した。
「悪いけどあんたの身柄、確保させてもらう。あとその‥‥女性も、検分するし」
「わたしのせいじゃない!剣姫のせいでしょう?!」
これを落ち着かせるのは大変だよなぁと遠い目をしたくなったルセロだったが、いつまでも突っ立っていても仕方がない。深く深く息を吐いた。一応油断はしないよう、背負った大剣の柄に手をやって、近付いていく。その傍らを、彼女が駆け抜けた。
「‥‥え」
そのまま彼女の手が振りかぶられるのを、呆気にとられて見ていた。