14.快進撃
案内するよ、と言ったのは彼女だった。その言葉を疑いもせず背後から指示されるままに走っていたが、これは。
「‥‥お前流石にこれは、わざとだろ」
角を曲がったところで遭遇した護衛を鞘のままの大剣で殴りつけて地に沈めて、ルセロは彼女を振り返って息を吐いた。
思い返せばそもそもの最初からおかしかった。ひっそりと用意された見た目質素な、その実内装はそれなりに整った馬車のところから始まって、曲がる角曲がる角護衛が立ち、要所要所に灯火だとか質素な作りの着替えなんかがこっそり置いてあるこの経路は、つまり。
「そりゃぁ、いざという時の逃走経路逆走してるし」
あっけらかんと親指おっ立てられて、ルセロにできたことはやはり息を吐くことだけだった。
「‥‥そんな経路、侵入者に教えてよかったのかよ‥‥」
「さぁね。でもあんた、仕掛けにはそんなに驚いてなかったよね」
そりゃぁ、多分会ったこともない父の薫陶だ。とは流石に口にできなかった。作り方は知らないまでもそのギミックを嬉々として教えてくれた母のおかげだ、とは。実のところ、壁や暖炉を弄ることで口を開ける隠し扉のようなものは、ルセロにとってそれほど驚異には当たらない。どのような仕掛けで、というのは少しは気になるが、それも大体は想像がつく。だから主に気にしているのは、いわゆるところの軍事機密をあっさりと伝えてくれてしまった彼女に対する戸惑いだけだ。
血のつながった両親、普段一切気にすることのない、そうすることで自分をごまかしている存在のことを口にする気になれなくて唇を引き結んだルセロを見て、まぁどうでもいいことだよねと彼女は言った。
「さて、その奥に魔女の娘はいるはずだよ」
「‥‥護衛がいないな」
確かに身分の高い人間の部屋だとは思うが、その扉の前の空間が虚しくルセロ達を迎えた。
「ほかのひとたちも遭遇しはじめたみたいだし、応援に出たんじゃないの?」
「いや、普通、王族の近くに控えるのは近衛なんじゃないのか?」
興味もなさそうに彼女は言うが、普通近衛は通常の兵士とは職務を異にしている、はずだ。王族やら何やらの事情など詳しくはないが。職業軍人であるところのルセロの母がたまに垂れ流す雑談くらいしか、ルセロは知らないが。
「‥‥まぁ、ここまで来たら行くしかないけどな」
苦笑し、ためらわず扉を開け放った。