12.突入待ち
半月は大分西の空低いところにあった。
「‥‥あんたってさー‥‥」
「‥‥んー?」
彼女は何故かルセロの隣にいた。
別に配下に入ったわけではないから好きにしたらいい、と告げたものの、それならあんたと一緒にいるのも勝手だろと笑われて鼓動が跳ねた。好きにすればとしか言えなかった。
分かっている、彼女が人質の身を案じているだけなことくらい。だからルセロ達を煽ってその勢いで魔女を殺したいことくらい。多分、魔女にばれて人質が危険に晒されたら、彼女はあっさりと寝返る。そのときのことを考えて、率いる立場であるルセロの傍に控えていることくらい、分かっている。
突入前、離宮を囲んでそれぞれが合図を待っている。
「‥‥あんたって人たらしだよね」
「‥‥何だよそれ」
求心力があるのだ、とは以前に言われたことはある。
「だってみんなを結局従わせちゃったし」
「ほとんどはったりだけどな」
「喋るのなんか苦手そうなくせに、なんか説得力あるよね」
前半は事実だ。ルセロは喋るのが苦手だ。説得力があるのかどうかは自分では分からないが、まぁ、何故か数十人の頭に据えられてしまっているということはある程度は説得に成功しているのだろう、というくらいには考えている。
「結局皆、魔女を追い落としたいってだけだろ」
望むところが叶えられそうな言葉なら、ひとは頷くものだ。
それは心底そう思っているのだが、彼女はどこか不満げだった。
「‥‥それじゃ何?あたしが部隊を率いたりできないのは、部下が戦闘を望んでないからだとか言っちゃうわけ?」
「‥‥そりゃ誰も、好き好んで戦争なんか仕掛けないだろ」
「でも部隊長は巧くやってんの!なのになんでか、あたしには誰もついてこないんだよね」
他人を思い通りに動かすには、いくつか方法があると聞いたことがある。褒めるおだてる叱る罰する、飴と鞭の使い分けとはよく言うが。
多分、それ以前の問題だろうなとぼんやりと思った。
「‥‥そりゃお前、お前について行ける人間がどんだけいるんだって話じゃないのか」
「‥‥えー‥‥?」
どこか幼い仕草で首を傾げる、何でここまで俺は心を砕いているんだろうなと思いながらも言葉を連ねる。そろそろ突入の合図を出さなければならないのに。
「お前、ひとりで突っ走る傾向あるだろ。俺もそうだけど。でも俺にはマルテがいるし、一応、自覚はある。でもお前にその自覚はなさそうだよな」