11.策と扇動
「それならある程度の裏は取れたということだな」
なるべく当然のことのように口にするように努めた。重要なことはさらりと告げるに限る、特に小難しいことを考えてほしくない連中に対しては。もちろん後からマルテには全てを告げるべきだろうが。
「で、それを念頭に置いたうえで離宮の襲撃についてだが」
つと、呼びかけようとして結局名乗りあいもしていないことに気付いた。だがまぁ後でいいかと思い直し、万能の二人称で呼びかける。どことなく面白くないが、何が面白くないのかは考えないことにした。
「お前に訊いときたいんだけどさ。魔女の娘って魔女を継ぐと思うか?」
剣姫本人、すなわち従姉妹でなかったとしても少なくとも半日は近くにいたはずだ。言葉を交わしたとは流石に思えないが、観察の一つもできなかったとも思わない。
問えば、あっさりと彼女は首を横に振った。
「まず無理だろうね」
「ふん?」
「魔女は支配しすぎる。あのお姫さんじゃ、支配がなくなったら戸惑うことしかできないだろうね」
それは少し身につまされる言葉だった。
だってルセロたちは、その魔女の支配力を一掃しようとしているのだ。おそらく、わが子さえ手下としか思わないという魔女のことだ、その抑圧は誰に対しても行われていて、そこから急に自由になったとして、彼らが惑うことは充分に考えられるのだから。
だがルセロは今更留まろうとも思わない。
「それなら、まぁ、身柄の拘束だけでいいか。
――いいか。離宮の戦力だけ抑えたら、王都へ向かう」
「な、ルセロ、」
「罠ということは分かってる。だけどこのまま王都へ向かったら挟み撃ちにされるだろ?」
何せあちらには百戦錬磨の戦姫がいる。
彼女はただ彼女の感情で寝返ったのだと皆には伝えてある。だからその戦姫が青写真を描いたのだとは告げることはできない。それに、おそらく戦姫だって敢えて手を抜いたりはしないだろう、であれば、まず間違いなくルセロ達に追手はかかるしそれが離宮からも出てこないとは間違っても言えない。
噴出しかかった疑問に即座に答えれば、それ以上の疑問点は出なかった。
ルセロは全員を見回しながら不敵に笑って見せた。
「――大丈夫だ。俺らは必ず王宮に辿り着くさ。
だってこっちには、剣姫がついている」
それもそうだ、と力強くそれぞれが頷いた。
「‥‥の、影武者だけどね」
ぽつりという呟きは誰の耳にも入っていなかった。