9.合流と疑念
「遅いルセロ‥‥?!剣のっ?!」
それは想像通り、ふらりと出て行ってふらりと戻ったルセロに真っ先に気付いたのはマルテで、当然のように一歩後ろを着いて来ていた彼女に気付いて目を丸くしたのも彼だった。
滅多に見せない余裕のない様子に、ほかの連中も気付いて視線を寄越し、同じように絶句する。ルセロのように激高して襲い掛かるような野郎はなかった。それはそうかもしれない、仮想敵として想定していても、まさか自分が切り結んでいく想像などほかの誰もしたことはないだろうから。
「ルセロ、お前、」
真っ先に気遣わしげな視線をこちらに寄越したたのはマルテだった。
ほかの連中は正直どこまでルセロに着いて来てくれているのかは分からないが、ことこの幼馴染に関して言えば、彼はルセロが彼らを意味なく裏切ることなどないと信じてくれているし、だからこそ脅されてでもいるのかと心配してくれたのだろうと思う。あとの者たちはただ戸惑ったように遠巻きに見ている。
だから、全員の視線が集まっているから丁度いい、とルセロはマルテに向かってはっきりと首を横に振って見せた。
「剣姫じゃないんだと」
「そうそう。あたしただの影武者だし」
ひょいとルセロの隣に並んだ彼女を見て、気圧されたように後ずさった者が数名、――あの連中は後方に回すべきかとルセロは思う。だって今の彼女は別に殺気はおろか闘気すら放っていない。それに怯えるようでは前線にいるには向いていないだろうと思う。
「‥‥影武者、だと?その顔で?」
怪訝な顔で問いかけるマルテは、流石、緊張は見せたものの動きはしなかった。唾を呑み込んだくらいはまぁ、仕方ないのだろうなと思う。こうして並んでいてさえどこかひやりとさせる、彼女は空気を纏っている。
対する彼女はあまりに軽やかだ。
「そうそう。だって初陣からこっち戦場に出るのはいつもあたしだもん。そりゃ顔も同じだよね」
「‥‥ドレスから鎧に着替えるとまるでひとが変わったみたいだってのは‥‥」
呻くような誰かの言葉に、やはり彼女は簡単に頷いて笑う。
「本当に顔が似てるだけの別人ってだけだよね」