プロローグ
その小国には、2人の姫君がいるという。
国王の娘ではない。次期国王の従姉妹にあたる姫君たちは、現国王の弟の娘たちで、国を継ぐべき者たちではないものの国の重臣たちの尊敬を集めていた。
それは戦をよくするがために。
2人の姫君、その二つ名を「戦姫」と「剣姫」と呼ばれた。合わせて「双剣の姫君」とも。
その小国は小国であったが、大国に吸収されず独立を保っているだけの理由があった。それが2人の姫君たち。
上の姫は戦姫。戦略を練って駒のように兵を進める才に長けた姫。その知略には大国の将軍も舌を巻いたという。先の大戦の折も、戦況をひっくり返したのは彼女の謀略だったとか。
下の姫は剣姫。多少の戦力差などひとりでひっくり返すほど、天が彼女に与えたのは剣の才。剣だけでなく弓も槍も、あるいは武器を使わず拳ひとつでも、彼女は大の大人に負けず劣らず、ただ用兵は得意ではないとかで、将軍職には就かず最前線でひとりの兵として戦うのだという。
その小国は小さいながらも豊かな土地で、常に大国に狙われているような国だった。
それでもその国が曲がりなりにも平和なのは、その2人の姫君が存在するからだという。
「2人の姫君。笑ってしまうね」
城の片隅で彼女は嘲笑った。