最終話 千年と花
花は俺のことを一体どう思っているんだろうか?
兄妹?
言葉を奪った人?
千には花に対して家族以外の感情が芽生えた。
それは、恋愛感情。
妹だからとかじゃなくて、もっと違う別の感情。伝えたくて仕方のない、伝えられない感情。
「花?どうした?」
花は何か言いたそうに俺を見ていた。
花は最近元気がない。悲しそうに俺を見て声を掛ければうつむいてどこかに行ってしまう。
今日も花は俯いた。
「花は俺が嫌い?」
不意に千が口にした言葉に花は顔をあげた。
「俺は花の事、好きだよ。花は…俺の事、好き?」
花はその問いに大きく頷いた。
「ねぇ花を植えよう。」
花の反応など気にしていないかのように突然千は庭に飛び出した。
神様、花は俺の初恋の人なんです。
俺はなにを失ってもいいから、花だけは幸せにして下さい。
花から言葉を奪わないで下さい。
俺がいなくても花が生きていけるように…。
「ねぇ花。ここの庭は、三年前から俺が花を植え始めたんだ。花の事を考えながら。三年でこれだけの花が咲くんだよ。三年っていうのは思うよりも短くて、きっと千年後、いや、もっと早く、みんな枯れちゃうんだろうけど。それでも人間がきちんと世話をすれば花は人間よりも長生きなんだ。千年後には、俺達は死んでてもうこの庭の世話も出来なくて、幽霊になってもきっとこの庭を大好きでいられる。そんな庭をこれからは花が作ってよ。千年後、誰も世話をしなくなって枯れたこの庭を一緒にみよう。もしかしたら、誰かが俺達みたいに世話をしてくれて、枯れてなかったら、すごいと思わない?だから、花。もうお別れだよ。俺はこれ以上花の隣りにいられない。」
千は一方的に話し、その日を境に家にあった荷物と一緒に姿を消した。
「せ…ん。」
花はゆっくりと口を開いた。
「千。大好きだったよ。ずっと。」
花は時間があると庭に行き花を植えた。自分の兄が残した唯一の証を千年たっても枯らさないように。
『花、千年後に一緒に咲かない花を見に行こう。』




