第三話 戒めと解らない気持ち
そしてその日から千は言葉を使うようになった。
花が失ったモノの形を千は掴み取っていた。
花が誇りに思っていた言葉の意味をなくさないために…。
「花。あの時はゴメン。ちゃんと助けて挙げられなかった。」
そういって俯く千の腕に花は優しく触れた。
その表情はまるで千に『気にするな』とでもいっているよう。
千の腕にはまだあの日の傷が残っていた。
傷を消す事も出来た。
だけどそれをしなかったのは、この傷が自分自身に対する『戒め』になると思ったからだった。
大きな傷跡。
花から言葉を奪った戒め。
花を守る為に出来た傷。
もう全部千の一部となっていた。
季節も移り変わり、あの日から、三回目の夏が来た。
それでも花の声も、千の腕の傷跡も変わりはしなかった。
ただ違っているのは、千が言葉を話す事と、花が言葉を話さないこと。それだけだった。
最近になって千は花の言いたいことがわかるようになった。
花の声は聴こえない。
だけど頭の中で花の声が響く。
『大好き。』
『千。』
『おはよう。』
『おやすみ。』
どんなに短い言葉でも、もう三年も聞いていない花の声が、千の脳裏で意味を成す。
「花。」
花の心の声が愛しくて仕方なかった。
花の事が好き。
でもそれは妹としてなのか、それとも1人の女の子としてなのだろうか?
解らない。
そんな解らない感情が千の中で渦巻いていた。ただひとつだけわかる事は、こんなにも愛おしいと思える。この気持ちは単なる家族愛などではないと言うこと。
花の事が好き。
それだけだった。




