第一話 花の声
俺は言葉を使うのが苦手で、いつも妹に頼ってばかりで、自分の言葉を使わなかった。その報復がこんなカタチで襲い掛かるなんて不幸以外のなんでもない。
言葉の意味を誰よりも考えて使っていた妹の花と言葉を使わなかった兄の千。2人は双子の兄妹だった。
花は人の気持ちに敏感で、俺より先に俺の変化を察してくれる。そんな花にずっと憧れていた。
「千はどうして言葉を使わないの?言葉は気持ちをちゃんと伝えてくれる、大切なものなんだから。」
千と花は教室の隅で話していた。
「俺の言葉は意味がない。」
千の小さな声を花は逃さなかった。
「意味のない言葉なんてないんだよ。千はなにを恐れてるの?話したからって誰も千を攻めたりしないよ。」
花が千の頬に触れようと手を伸ばした瞬間、千は急に花の手を掴み自分のほうに引き寄せた。花は千に包まれるように抱きかかえられた。
その時千の後ろで『ガシャーン』と大きな音がした。
「きゃぁぁぁ。」
悲鳴。
それが花の最後の言葉だった。
千は血に染まった。投げつけられた石によって割れたガラスが直撃した千の体中傷だらけだった。なかでも1番大きな破片が突き刺さった右腕は大量に出血していて一瞬にして床を赤色の染め、教室内は騒然としていた。
千が花の異変に気付いたのはそれから少したってからだった。
「花…?」
花は目を大きく見開いて千の血に染まった床をみていた。そして何かを言おうとしているかのように口をパクパクと動かしていた。花はゆっくりと千の腕に手を伸ばし心配そうにしていた。
「俺は、平気。花…声。」
花は俯いたがもう一度顔を挙げて頷いた。
「花…。」
その時の千の言葉はとても小さくて、花以外にその声を聞いた者はいなかった。
俺は体に消えない傷を負った。
花は心に癒えない傷を負った。
俺達はたくさんのモノを失った。




