入学式
蒼一色に染め上げられた空の下。
アラム・ベリエルは白大理石の門柱の前で一人、じっと門と、その奥の建物を見上げていた。
そんな彼をある人は苦笑しながら、ある人は不思議そうに気にかけながらもずいずいと奥に入っていく。
何故なら、彼らの目的はこの門の奥にこそあるからだ。
この門の奥――国内最高の魔道師を輩出し続ける、王立魔法学校。
その入り口で彫像のように固まること十分、漸く彼に声をかけるものが現れた。
「ねぇ君、そんなところで何をしているんだい?君も、王立学校の新入生?そろそろ行かないと入学式始まっちゃうよ?」
アラムがはっとして声をかけられた方向を見ると、彼より少し年上の少年が人懐っこい笑みを浮かべて立っていた。
金髪のやわらかい巻き毛をリボンで一つにまとめたそのしっぽを指先でくるくる弄びながら、少年はじろじろとアラムのことを見回した。
「……あの、何か?」
明らかに品定めされている居心地の悪さに身動ぎしながらも、上質のものに身を包んでいる、明らかに貴族の少年に一応アラムは丁寧に質問した。
「……うん合格!」
「は!?」
何が!?とアラムが問い返す前に、少年はぐいっと彼の腕を掴んで強引に歩き出した。
「いやー、今日は良い日だ!あ、僕の名はクリストフ・セドリック・セバルカンティ、クリスと呼んでくれ。今日からここの一回生だ。君は?」
「あ、ぼ、僕はアラム・ベリエル……」
大股で早歩きするクリスに振り回されるようにしてアラムはついていっていたが、そんな事はお構いなくクリスは学校内を右に左に、迷うことなくまっすぐに道を行く。
「ベリエル……聞かない名だな……」
そう呟きながらもクリスの足は止まらない。右の生け垣を突っ切り、左の回廊を突進しながらクリスはなおも頭の中の人物名観を探っているようで。
――そうして全力でひっぱりまわされること五分、アラムはたまらず声を上げた。
「あの、クリス!僕たち何処に向かってるんだ!?」
「何処って、ここだけど」
何の感慨もなくクリスが指差したのは、門から一直線に真っ直ぐ来れば着く、白亜の大聖堂。
「……どうしてあっちこっち引きずり回したんだよ?」
「だってねぇ……」
クリスは秀麗な顔を人懐っこい笑みで崩しながら言い切った。
「そっちの方が楽しいじゃないか。人生、寄り道回り道バンザイ、てね」
「……オイ!」
「君が門をぼけーっと馬鹿みたいに眺めてたときから、君とは良い友達になれそうな気がしたんだ。これから八年間の学校生活で、神々が嫉妬するほどに麗しく、気高い友情を築こうではないか!」
あっはっはっは、とやけに芝居がかった笑い声を上げるクリスに引っ張られるようにしてアラムは大聖堂への階段を登り、入り口のホールをまっすぐ通り抜けた。
と、いきなり目の前がひらけて。
そこはまた、白一色の回廊だった。
円柱のみが規則的に配された幅の広い廊下にはそこここにテーブルと椅子が配され、思い思いの場所に研究者や学生が陣取って討論や読書に打ち込んでいた。
その回廊に囲まれた中庭には、真ん中に大きな噴水が置かれ、そこから湧き出した水が張り巡らされた水路を流れて、その両側には水を大量に必要とする園芸種の花が咲き乱れていて。
回廊の屋根にはまた水路と花壇が据えられ、その水路の水は滝となって回廊のそこここから水飛沫と軽やかな音を奏でながら流れ落ちていた。
――あっけにとられて言葉を失ったアラムを見て、クリスはくすりと笑った。
「ああ、君は庶民の出なんだね。だからベリエルという名を聞いた事がなかったのか」
アラムは自分の出自を笑われた気がしてクリスを睨みつけると、彼はその視線に気づいて、今までの笑顔とは違う、冷たささえ漂う微笑を浮かべた。
「欲得ずくの貴族どもなら、この庭を見て自分の家のほうが立派だと自慢するに決まってるからね。馬鹿馬鹿しい」
「……クリス?」
いきなり雰囲気の変わった少年に驚いてアラムは声をかけたが、その途端、クリスは今までの人懐っこい笑みに戻った。
「ところで突っ込んだ話をするが、アラム、君庶民の出って事は将来王宮魔道師目指してたりするわけ?」
「……まぁ、ね。コネが無いから役人にはなれそうにないし、力が無いから軍も無理だし。そうなると自然に、ね。母が病気で寝込んでるから並の稼ぎじゃ中々苦しくて……。本当はここに進学することすら躊躇われたんだけど、入学試験に立ち会った先生方が奨学金なんかを色々進めてくれて、それで何とか」
「奨学金!?」
いきなりクリスの目の色が変わった。
「いやぁ、やっぱり、僕の人を見る目は確かだったってことか?」
ぱぁぁっと周りに花と光を浮かべかねない雰囲気のクリスに、アラムは一歩後退りした。
と、その時早く、かの時遅く、アラムの手をクリスが両の手で捕えた。
「おめでとう、アラム!君は類稀なる才能ととてつもない幸運のその両方を手にしているようだ!君がこの年に入学をすること、そしてこの僕に出会ったという事はかけがえのない幸運事として君の人生に燦然と金字塔を打ち立てることだろう!」
「あの、話が見えな……」
「ということで、アラム、僕の家を君のパトロンにさせてくれないだろうか?」
はぁ!?とアラムが素っ頓狂な声をあげるまもなく、クリスは「僕ってなんて幸運なんだろう!」とまたもや自分だけの夢の世界に突入していっていた。
――流石に我が身に関係することとあってはクリスをそのままにしておくことも出来ず、アラムは彼を現実世界に引きずり戻した。
「あのさ、どういうことか、よく判るようにゆっくり説明してくれないか?」
結構本気の力を込めてクリスの腕を握ると、クリスはやんわりとその手を外しながらアラムの希望通りにゆっくりと、判り易く説明を始めた。
――ただし、彼の基準において。
「話せば長いんだけど、今年はやけに貴族の入学者が多いと思わないか?」
「……いきなり話が全然関係ない所に飛んでる気がするんだけど」
「長い話のうちに君の知りたい所に着地するよ。ま、多いんだよ今年は。特にブリュイエール一族の人間が。僕を含めてね」
「ブリュイエールって……」
アラムはクリスの口にした名に敏感に反応した。
その名は、言葉を話せるものは誰もが知っていた。
「貴族の筆頭名門、王家に次ぐ家柄、国開きの魔道師を輩出した一族の人間なんて普通は魔法学校は必要ない。ここと同程度の教育なんて一族の力を持ってすれば楽に用意できるからね。だが、今年は違う。なんたって一族の惣領姫がご入学遊ばされるんだ。姫の最近のぶっ飛んだ言動を君知ってる?自分より魔法を使える人間が居なければ自分で家を継ぐんだってさ!いやあ、久し振りに笑ったね、姫の発言の後の長老たちの唖然とした顔!」
あっはっはっは、と芝居がかった笑い声をたっぷり五秒は響かせた後、クリスはいきなり真面目な顔をしてアラムを振り返った。
「さて、ここからが君にも関わってくる話だ。姫は学年主席から転がり落ちると即退学、即結婚って一族の長老たちから言われていてね。じゃ、もし本当に姫が主席から転落した時、そこで問題になるのが姫を暗黒の運命に貶めさせた悪役が誰かってことでね」
「別に誰でも良いんじゃないのか?」
お偉い貴族様の家庭の事情とやらには全然興味のもてないアラムは適当に相槌を打った。
が、クリスは芝居がかった調子でチッチッチッと人差し指を顔の前で振って見せた。
「甘いね、アラム。もしそれがブリュイエールの人間なら万々歳、晴れてそいつの両肩にはブリュイエール一族の未来の重責がのしかかる。だがブリュイエールの人間じゃなかったらどうなるか。もしかしたら、力の強さを見込まれて婿に請われて将来王の左に坐すことだって夢じゃないかも」
「……生憎、俺は貴族の頂点に立ちたいんじゃないんだけど」
「今の発言でブリュイエール一族にとって君の利用価値はさらに跳ね上がったよ!」
おめでとう、と明らかな芝居口調で数拍拍手した後、クリスは片眉を跳ね上げて冷笑を口元にたたえた。
「あ、自分の利用価値云々に嫌悪感を抱いたって顔だね、それは!うん、君はそういう純真なままで良いんだよ。僕だって話しながら虫唾が背中を大運動会中さ!だけどねぇ、こっちにも色々事情があるから」
嫌悪感で爛々と目を光らせたアラムに目配せすると、クリスはまたふざけた芝居口調に戻った。
「アラムみたいな人が姫を追い落とすと、ブリュイエール一族としては姫を屋敷に閉じ込めることができて、かつ跡継ぎ問題も白紙撤回、いいとこばっかり。しかも、魔法学校で主席を取れるような人間なら将来有望、奨学金まで貰える程だなんていったら末は宮廷魔道師の筆頭だね。そんな人と所縁を結びたいと思うのは人の性じゃないかな?」
「お、俺が王宮の筆頭魔道師!?」
いきなり予想外のことを言われて、アラムの顎がかっくんと地面にまで落ちそうになったが、クリスはそんな事にお構いなくニコニコ笑いながら頷いた。
「うん。奨学金制度ってそんなに適用されるもんじゃないんだよ?魔道師なんてもんはお金があったら自分の研究に全部つぎ込んじゃうような奴らだし。だけどそれでも金を出すのは、金を出しても学ばせたいほどの才能に溢れた魔道師の卵なのに金に困っているせいでその才能が潰されるかもしれない、でも奨学金なんてすずめの涙じゃ足りるもんじゃないって時に君みたいな勿体無い人間を救うために小金でコイツは優良物件ですよって札貼ってパトロンつきやすくするためなんだよ。判った?」
クリスは奨学金を小金といったがはっきり言ってアラムの生活水準位の家庭なら普通に食べていける程度の額だった。
その額を聞いて、これで生活費の心配をしなくて良いとほっと胸をなでおろしていたアラムだったが、クリスはそれ以上の条件をつけ始めた。
「どうだい?良い話だと思わないか、僕らにも、君にも。我が一族は哀れな姫を閉じ込める可能性が出来る。見返りに君には僕の家で安定した勉学環境を進呈しよう。きっと君なら魔法学校を好成績で卒業できる。首席ともなれば王宮魔道師としても採用されやすくなるし、むしろうちの一族に覚えめでたくなっちゃったりして下克上当り前の安定性ゼロな魔術師じゃなく官僚の一人としての道を行くためのコネも出来る。ついでに君のお母さんの病気の世話までつけるぞ。母親に十分な看病も出来ず、日々の生活に苦心しながらの勉学の道を志して、挙句落ち零れていくのとどっちがマシだと思う?」
クリスに問いかけられて、アラムはじっと床を見つめた。
もしクリスが提示してくれた条件を全部実現できたら、母親は今の家よりもっと良い環境で療養できる。
自分も、一切の家事雑事から解放されて勉学に集中できる。
だが。
「……ちょっと、考えさせてくれ」
あまりにうまい話ばかりでアラムは冷却期間を欲した。何か裏がありそうで。
今までの芝居口調とか、一番最初にアラムを意味もなく引き回したこととか、色々な事が積み重なっていきなりクリスのことを全面的に信用できないというのが実際だった。
しかしクリスはその言葉に納得してうんうん、と大きく頷き、ついでアラムの手をとると今までにないほど真摯な口調で話し始めた。
「返事はいつだって良い。それよりこれはこれからの友としての言葉だ。君はこれから毎日のように同じような話を受けるだろうその時に、君の才能に惚れただのただ埋もれさすのは惜しいだの慈善事業の崇高な精神だのといって美辞麗句で自分の欲望を隠すような人間より、利害の全てをさらけ出す僕のほうが遥かにマシな人間だということを思い至ってくれると嬉しい」
――異様なほど真剣な眼差しが、アラムの琴線に触れた。
クリスはふざけてるし、人を喰ったような口調だし、どっかおかしいけど、本音のところは良い奴なんじゃないんだろうか?
「……一つ、聞かせてくれ。お前は、俺がそのお姫さまを追い落としても、本当に良いんだな?」
ぜひとも、聞いておきたかった。
人を道具のように扱うことに虫唾が走ると、貴族の腐れた在り方に対する嫌悪感が言葉の端々から匂っていたクリスだったからこそ、確かめておきたかった。
だが。
「うーん、そうだねぇ……」
クリスの表情に混じりだしたのは、凍てつきそうなほどに冷たい何かだった。
「僕はそれほど姫に優しい訳では無いよ。当主のやり方は手ぬるいと思ってるし」
「手ぬるい?」
「じゃないか?娘の口一つ塞がず自由気ままに育てて、今回の騒動を巻き起こしてさ。僕が当主ならまず間違いなく王太子妃として差し出して、本家の跡取りは一族の中から養子を取ることにするね。そして口うるさい親族のお偉方をいがみ合わせて力を互いにそぎ落とさせておきながら力の弱い親族の中でも純朴そうなのを見繕って力を与え、絶対の忠誠を誓わせて本家の地位向上に努める」
滔々とクリスが対ブリュイエール一族暗黒計画を語り終える頃には、アラムの顔色は真っ青に変わっていた。
それを認めて、クリスはぷっと吹き出した。
「嘘だよ。この温厚な僕がそんな恐ろしいこと考えたりするわけないじゃないか?」
「……考えなきゃ喋れるわけないだろ」
「冗談だよ冗談」
またも豪快に笑い始めるクリスを、アラムは疑り深げに見つめていた。
あの声色が、演技?
そう思うには、余りにも真に迫りすぎていた気がした。
と、その時、大聖堂の入り口付近が途端に騒がしくなった。
「何だ?」
「きっと、我らが姫がご到着遊ばしたんだよ」
クリスが皮肉げに流し目をくれた先に、微速前進をする黒い人だかりが。
興奮した人間に囲まれて、その輪の中心となる人間はアラムたちからはまるで見えなかったが、その集団の中で「初めまして、ジョゼフィーヌ姫、私は……」だとか「お荷物をお持ちいたしましょうか、ジョゼフィーヌ姫、ちなみに私は……」だとか「ご入学おめでとうございます、今宵は我が家でお祝いのパーティーをご用意させていただいておりますので……」などなど、多種多彩なわめき声が飛び交っていた。
噂のお姫様もこりゃ大変だな、とアラムが他人事のように眺めていたその時、ひときわ甲高い声が群れの中心から上がった。
「お退きなさい!貴方たち、この私に入学式に遅刻などという不名誉なレッテルを貼らせたいの!?」
――その瞬間、人波がざざっと割れて、アラムからも中心の人物が良く見えた。
白を基調とした絹のあちこちに銀糸でラ・ブリュイエール家の象徴である月の意匠が刺繍された式服にくるまれた、どう見てもアラムの腰ほどの背丈しかない……
「……ガキ!?」
今までの話から同い年ぐらいの美少女な姫を想像していたアラムは思わず本音をポロリとこぼした。
その声は静まり返った回廊中にやけに大きく響いて。
「……誰がガキですって?失礼ですけれども、私これでも淑女教育は全て一通り終えておりますのよ」
クリスと同じ金色の巻き毛を揺らせながら、憤然とした面持ちで少女がつかつかとアラムに詰め寄ってきた。
かつっとひときわ大きな足音を立ててアラムの目の前に仁王立ちになるとびしっと人差し指をアラムの目の前に突きつけた。
「全く、失礼な方ね。今からその非礼を私に詫びれば許してあげてもよろしくてよ」
「ヤだね!」
アラムは反射的に切りかえした。
余りにも貴族然とした口調と、見下し感全開の態度と、何と言っても身長差と年の差のダブルコンボのコンプレックス全てが相まって何故だか無性に反抗したくなったのだ。
「子供に子供って言って何が悪い?」
「貴方、子供じゃなくてガキって言ったのよ!?よくもこの私に向かって侮蔑的な内容を含む単語を投げかけたわね!?」
互いにムキになって言い争いを続けようとする二人の間に、クリスが絶妙の間合いでまぁまぁと言いながら割って入った。
「姫、そんなにお怒りになっては折角の花の顔が台無しですよ」
強引に後ろからアラムの口を閉じさせ羽交い絞めにさせながら、クリスはジョゼに魅惑的な微笑を向けた。
途端に、ジョゼの目がまん丸に見開かれる。
「あら、クリス、どうしてここに?貴方官僚志望ではなかったの?」
「姫が魔法学校に進学されるというのに私がついていかない道理がどこにありますでしょうか?このクリス、姫の奴隷を己が身に任じておりますれば……」
「相変わらず調子の良いことね」
ふん、と鼻を鳴らしてジョゼは視線をクリスから羽交い絞めにされてるアラムに向けた。
「で、貴方こんな礼儀も弁えていないような野蛮人とお友達なの?」
「これからなる予定ですよ。何せ中々居ない逸材で面白いもので」
「確かに私に暴言を吐く人間は少ないけど……友達は選んだほうが良いわよ。それより離してあげれば?息出来なくて苦しそう」
「おや失敬」
ぱっとクリスが離すと、アラムは肩で大きく息をしながらクリスとジョゼを見比べた。
「クリス、お前、俺を殺す気か!」
「ああ、アラム、もしそうなったら僕は君の為にソネットを惜しみなく君の墓前に捧げよう!」
よよよ、と悲劇のヒロインのように両手を上げて膝から崩れ落ちるクリスを完璧無視して、ジョゼはアラムを睨みあげた。
「貴方、もう少し私に対する敬意というものを持つべきね。これからの学校生活でそれが身につくことを心から祈っているわ」
「何で俺がお前に敬意を持たなきゃいけないんだよ?俺は尊敬できる人間になら無条件で尊敬するさ。」
「あら、負け犬の遠吠えって私初めて聞いたわ」
「誰が負け犬の遠吠えだ!」
「だってそうでしょう?私、今年の新入生代表を任されたの。つまり、入試トップはこの私。実力は私の方が貴方より上なの。魔道師は実力が全て。貴方の上に立つ私に敬意を払いたくないだなんて、嫉妬?僻み?とりあえず、情けないことには違いないわね」
「なっ……!!」
怒りの余りアラムが言葉に詰まってしまったその隙に、ジョゼは「私入学式の打ち合わせがあるので失礼」とさっさと回廊の奥に姿を消してしまった。
ぷるぷると未だ怒りで体の震えが止まらないアラムの肩をぽんと叩いて、クリスはジョゼの消えていった方向を見た。
「相変わらずだねぇ、姫の容赦のなさは」
「……ったい、勝ってやる……」
隣に居るクリスにすら聞こえるかどうかの音量でぶつぶつと呟いていたアラムにクリスが視線を向けた途端、いきなりアラムが吼えた。
「絶対あのクソガキに勝ってやる!!!クリス、俺パトロンの話受ける!」
「ま、姫に勝つのは難しいと思うけど、頑張ってくれたまえ」
姫は国開きの魔道師に匹敵するほどの力を持ってるから、という重要な話を、クリスは自分の胸のうちだけにとどめておいた。
無駄に闘争心を煽るか、無駄に闘争心を削ぐか。
どちらにせよ悪い方向にしか働かなさそうなのが付き合いの浅いクリスにも見えていた。