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2-4 きゃーっ、猫ちゃん可愛い!




「助けてくれてありがとう」


 ピンク色の髪の少女は、その場でくるっと回ってみせた。


 とても仲間が怪物に殺された直後とは思えないほど陽気な子だ。

 小さな顔とは対照的にぱっちりと開いた大きな目には、吸い込まれるような魅力がある。

 踊り子の衣装なのだろうか。

 ピンク色のドレスは大きな胸から細く引き締まった腰への曲線を強調し、彼女のスタイルの良さを見事に引き立てている。


 こんなに可愛いのに、なぜアイドルになれないのかと疑問に思ってしまうのは、俺が素人だからだろうか。

 彼女はただそこにいるだけで、周囲を華やかに彩るオーラを持っている。

 それは訓練や経験では得ることのできない、天性のギフトだ。


「きゃーっ、猫ちゃん可愛い!」


 そう言うと彼女は、俺の承諾も得ずに勝手に首根っこをつかんで持ち上げると、両手で抱きかかえた。

 豊かなバストが俺の体にもにゅっと押し当てられる。

 どう対応すべきか考えあぐねていると、彼女はさらに俺の背中の毛をなでまわし、「もふもふだー」などと言いながら頬を俺に押し当ててスリスリしてきた。


 ゲーミングスーツに内蔵された筋電アクチュエータがプレイヤーの触覚に一種の錯覚を与えているだけだとはわかっているのだが、得も言われぬ快感が俺の全身を包み込んだ。


「先輩!

 そいつ、中身はおっさんすよ!」


 俺が快楽に身を委ねていると、チーカが叫び声を上げた。

 余計なこと言うなバカ!


 いっそのことずっと猫の振りをしていれば、いろいろ楽しい思いができるかもしれないという邪念が俺の脳裏をよぎった。

 こっそり布団の中に侵入したとしても、猫なら許されるだろう。


 しかしこちらを睨みつけているチーカの形相を見ると、どうやらこの野望は諦めなくてはならないようだ。

 俺はナルの胸から跳躍すると、シュタッと着地して彼女に向き直った。


「さよう。

 ワシはデオロン。

 猫神の守護が失われた原因を求めて旅をしておる」


 俺はできるだけ重々しく威厳たっぷりに自己紹介した。

 性欲などとうに超越しているような老人キャラならば、エロく見られない気がしたからだ。


「わー、言葉が話せるんだ!

 すごいね!」


 ナルは身悶えするように体を揺らし、無邪気に笑ってみせた。


 俺はほっとした。

 無理やり抱きかかえられたとはいえ、相手の受け取り方によっては最悪セクハラで訴えられる可能性もある状況だったからだ。


「あたしもデオロン様の旅に同行させていただけませんか?」


 ナルの申し出に、もちろん俺たちは頷いた。

 戦闘力は期待できなさそうだが、彼女の無邪気な明るさは、これからの旅を楽しく彩ってくれるだろう。


「では。

 ボスも倒したことだし、オリゴン村に戻るとしようかの」


 俺はアイリアとチーカが頷くのを確認すると、メインメニューを開き、「リターン」を選択した。


 風を切るような効果音とともに足元から発生した光の筒が俺の全身を包み、視界が次第にホワイトアウトしていった。

 オリゴン村のデータがダウンロードされるまで少し待たされたが、自宅でプレイしている場合に比べるとだいぶ早い。

 さすがにテレビ局ともなると、よほどの高速回線を使っているのだろう。


 ふわっと着地するような感覚とともに、周囲の風景が色を帯びていく。

 オリゴン村のポータルの上だ。


 俺に続いて他の3人の姿も順に出現した。


「あららっ」


 アイリアだけは着地時にバランスを崩したようで、ヨロヨロとふらついていた。

 ゲーム内で瞬間移動するのは初めての経験だったのだろう。


「うまくいったっすね!」


 周囲を見回したチーカが明るい声を上げた。

 実際、村の雰囲気はだいぶ変わっていたのだ。

 村人たちに混ざって、随所で猫が散歩したり、昼寝したりしている姿が見える。

 どうやらパンサースネークを倒したことで、川が浄化され、元気を取り戻したようだ。


 ちょっと変化が早すぎるような気もするが、ゲームなのでしかたない。

 それに、ポータルを使った移動はプレイヤーにとっては数秒の経験だが、その間、ゲーム内時間は移動距離に比例して進行するのだ。

 

 俺たちがとりあえず教会に向けて歩いていると、すれ違う村人からはお礼を言われ、猫たちからはちょこんとお辞儀をされる。

 「猫神様の守護が失われた原因を探る」という旅の本来の目的はまったく進展していないのだが、俺たちは刹那的な凱旋気分を楽しんでいた。


「おかえりなさいませ、デオロン様!」


 村の教会に入ると、予想通りマイラが出迎えた。

 相変わらず弱々しい風体ではあったが、血色もよくぴんぴんしている。


「マ、マイラ!

 どうして!?」


 アイリアが驚いて叫び声を上げた。

 まるで幽霊でも見たかのように恐る恐る近づくと、マイラの肩や腰をパンパンと叩いて実体があることを確認している。


「あの、おかげさまで、生き返りました」


 マイラは少し照れくさそうにてへっと笑った。

 パーティに加わった直後のバトルでいきなり死んでしまうとは、本人も予想していなかったのだろう。


「そうか。

 それはよかった!」


「ふむ。

 猫神様への厚い信仰心が、奇跡を呼んだのかもしれぬな」


 俺は老齢の猫らしく重々しい口調で答えると、アイリアもにっこりと笑った。


「デオロン様。

 お帰りになったばかりなのに恐縮なのですが……」


 マイラは俺の視点に合わせるように腰をかがめると、部屋の奥のほうへと視線を移した。


「彼女からデオロン様にお願いがあるそうなのです。

 お話だけでも聞いていただけないでしょうか」


 マイラの視線を追うと、そこには美しい雌猫がちょこんと鎮座していた。


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