Scene 8 誤った勝利
夜は静かに、更けていった。
音楽が止み、
蝋燭の火が落とされ、
社交会は形だけの終わりを迎える。
だが、物語はその後に動き出す。
「聞きました?」
回廊で、控え室で、馬車の中で。
「また、クラウディア様が人を泣かせたそうよ」
主語は曖昧。
詳細は不要。
「リリア様が、可哀想で……」
その一言が、すべてを説明する。
事実は、削ぎ落とされる。
順序は、入れ替えられる。
残るのは、
理解しやすい筋書きだけだ。
――冷酷な悪役令嬢。
――健気な被害者。
王子の耳にも、その噂は届いた。
「随分と、心を痛められたでしょう」
レオンハルトは、
リリアの前で声を落とす。
「気に病むことはありません。
あなたは、何も間違っていない」
それは、慰めだった。
同時に、裁定でもあった。
リリアは、少しだけ驚いたように目を見開き、
それから、深く頭を下げる。
「恐れ入ります、殿下」
否定しない。
説明もしない。
ただ、受け取る。
その姿が、
王子の満足を、さらに強める。
――守るべき存在。
――庇護する価値のある者。
夜の空気は、
すでに一つの物語を完成させていた。
誰が悪で、
誰が善か。
誰が選ばれ、
誰が孤立するか。
それを決めたのは、
行動ではなく、解釈だった。
この夜、
リリアは何も奪っていない。
クラウディアも、
何も失っていない。
それでも――
勝敗だけが、確定した。
それが、
最も誤った形で。




