Scene 4 市井 ― すでに別の噂
王都の酒場は、今日も変わらず騒がしかった。
昼下がり、木の扉が開くたびに、埃と人の声が一緒に流れ込む。
話題は尽きない。
「来月から税が上がるらしいぞ」
「教会のあの司祭、別の街に飛ばされるんだと」
「聞いたか? 南区の貴族の娘が――」
杯が打ち鳴らされ、笑い声が重なる。
誰も声を潜めない。
誰も過去を振り返らない。
かつて王都を覆った騒動の名は、たまに思い出したように口に出される。
だが、それはもう重さを持たない。
「そういえば、前にそんな話もあったな」
「王子がどうとか、女がどうとか」
「結局、誰が悪かったんだ?」
問いは投げられるが、答えは返らない。
名前は混ざり、入れ替わり、いつの間にか別人のものになる。
事実は削られ、代わりに面白い尾ひれが付く。
正確さより、語りやすさ。
真実より、今夜の酒の肴。
市場では別の噂が走り、
路地では別の悪役が作られ、
酒場ではもう次の物語が始まっている。
誰も気づかない。
その背後で、正式な記録が完成したことを。
記録が過去を閉じた瞬間、
噂は未来へ移動する。
王都は今日も賑やかで、
無責任で、
そして、何事もなかったかのように生きていた。
――物語は終わった。
だが、人々の口は、すでに次の嘘を探している。




