Scene 3 歴史書 ― 整えられた過去
王立文書館は、昼でも薄暗かった。
高い天井から差し込む光は、埃を照らすだけで、人の顔を明るくはしない。
分厚い机の上に、一冊の書が置かれている。
革表紙。金の箔押し。
題は簡素だ。
――「最近の王都騒動 記録」。
誰かがページをめくる。
音は小さく、ためらいもない。
書かれているのは、年表だった。
日付。決定。通達。再編。
文章は短く、感情を許さない。
王子レオンハルトの項目には、こうある。
「統治体制再編に伴い、王位継承順位を変更」
理由はそれ以上、書かれていない。
失策も、過ちも、女の名もない。
騒動の発端については、こう整理されている。
「複合的要因による混乱」
誰が始めたのか。
誰が傷ついたのか。
誰が得をしたのか。
それらは、すべて「要因」という一語に畳まれている。
ページを進めても、ある名はほとんど出てこない。
クラウディア。
制度調整の一部に、かすかに触れられるだけだ。
個人の判断や、行動の意図は書かれない。
そして――
リリアの名は、どこにもない。
かつて語られた
「清らかな象徴」
「忍耐」
「沈黙が救った」
そうした言葉は、すべて削除されている。
代わりに並ぶのは、制度。
手続き。
確認。
合意。
人は、物語から外された。
書を閉じると、重い音がした。
それは終わりの音だった。
誰かの人生が消えた音。
だが、失われたものとしては、記録されない。
歴史は、常に穏やかだ。
最も角の立たない言葉だけを選び、
誰の心も刺さない形で、過去を整える。
だからこそ――
ここに書かれた過去は、
誰にとっても、あまりにも静かだった。




