Scene 2 生存報告 ― サブキャラたちのその後
それは、誰か一人の物語として語られる場面ではなかった。
歴史の余白に、短い注釈のように書き込まれる断片。
だが確かに、彼らはそこに「生きて」いた。
フィリップは地方へ向かった。
王都から馬で数日、目立たないが荒れてもいない町。
肩書きは官僚。裁量は限定的。
左遷と呼ぶ者もいれば、無難な配置だと評する者もいた。
彼自身は、どちらでもいいと思っていた。
勝ち馬を読み違えた夜の記憶は、酒とともに薄れていく。
もう中心に戻ることはない。
だが、戻らなくて済んだことに、ほっとしている自分がいる。
補佐官ヘルマンは、相変わらず机に向かっている。
名前が表に出ることはない。
肩書きも変わらない。
ただ、彼の書いた文書だけが、次々と整理され、綴じられていく。
彼は知っている。
今日の報告書が、数十年後には「史料」と呼ばれることを。
そこに感情は挟まれない。
事実が削られ、言葉が整えられ、
「理解しやすい過去」だけが残る。
それでいい、と彼は思っている。
それが仕事だ。
侍女エミリアは、新しい主のもとにいる。
以前より静かな屋敷。
以前より安全な距離。
王都の噂話に、あの名が出ることはない。
彼女も語らない。
語る必要がないからだ。
だが、夜更けに灯りを消すとき、
彼女は時折、思い出す。
――あの晩餐会の空気を。
誰が何を持っていたかを。
忘れてはいない。
ただ、生きるために、口にしないだけだ。
王子レオンハルトは、生きている。
小さな領地。
控えめな暮らし。
呼ばれることのない称号。
誰も彼を責めない。
誰も彼を讃えない。
だから彼も、自分を裁かない。
「皆のためだったのだろう」
そう思える余地が、最後まで残されている。
それは罰ではなく、救済だった。
この物語で、処刑された者はいない。
血を流した者もいない。
英雄として語られる者もいない。
死んだのは、
立場。
名前。
そして、物語の中心という幻想だけだった。
彼らは今日も生きている。
それぞれの場所で。
それぞれの、語られない余白の中で。




