75/81
Scene 7 終幕 ― 悪役令嬢の勝利
勝利とは、拍手を受けることではない。
喝采の中心に立ち、名を呼ばれ、称えられることでもない。
それはむしろ、
――役割を押し付けられずに済むことだ。
王都では、まだ彼女の名が囁かれていた。
英雄になり損ねた女。
逃げた悪役令嬢。
秩序を壊し、そして立ち去った存在。
だが、そのどれもが、もはや彼女の背には乗らなかった。
彼女は英雄にならなかった。
救世主にも、象徴にもならなかった。
誰かの期待を引き受ける椅子にも、
次の混乱を背負う役にも、
座ることを拒んだ。
だからこそ――
彼女だけが、舞台の外に立っていた。
誰に追われるでもなく、
誰に裁かれるでもなく、
誰に祝われることもなく。
静かに、確かに。
自分の意思で。
それを、人は勝利とは呼ばない。
だが、
物語が終わり、
役割が消え、
名前が必要とされなくなったとき――
最後まで自分を失わなかった者がいるならば、
それはきっと、
唯一、自分で終わらせた悪。




