表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/81

Scene 5 王都を去る準備 ― 静かな整理

屋敷の中は、いつもよりも静かだった。


 クラウディアは書斎の扉を開け、机の上に積まれた帳簿を一つずつ確認していく。どれも見慣れた文字で、内容も新しいものではない。だが彼女は省略せず、最後まで目を通した。


 使用人たちは順に呼ばれ、解雇ではなく「契約の終了」を告げられた。理由は簡潔で、謝罪も感謝も付け足されない。必要な金は渡され、紹介状も用意されている。彼らは戸惑いながらも深く礼をし、屋敷を去っていった。


 家具の一部は売却され、書類は仕分けられ、金銭は複数の名義に分散される。長く使っていた印章は封蝋とともに箱に収められ、連絡用の名簿は燃やされた。


 どれも、感情を差し挟む余地のない作業だった。


 クラウディアは壁に掛けられた古い絵に一瞬だけ視線を向けたが、立ち止まることはない。思い出を辿ることも、言葉にすることもなかった。未練は整理対象ではない、と最初から決めているかのように。


(ここに残れば、また役を与えられる)


 それは確信に近い予感だった。英雄、調整役、象徴、あるいは次の責任者。名前を変えただけの同じ椅子が、必ず用意される。


(ならば、降りるしかない)


 彼女は最後に屋敷を一巡し、灯りを落とす。扉を閉める動作は丁寧だったが、ためらいはなかった。


 舞台から降りるには、拍手を待ってはいけない。

 その前に、自分で照明を消し、出口を探し、誰にも役を残さないように片づける必要がある。


 クラウディアは外套を羽織り、王都の夜へと歩き出した。

 そこには、もう彼女の名前を呼ぶ声はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ