Scene 4 大臣バルタザール ― 唯一の理解者
石造りの廊下は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。高い窓から差し込む光が床に細長い帯をつくり、通り過ぎる者の影だけが、ゆっくりと伸びては消える。
クラウディアが歩みを進めると、その先にバルタザールが立っていた。待っていたのか、偶然か。どちらでもよかった。彼はいつも、そういう位置にいる。
彼女は立ち止まり、軽く会釈をする。大臣はそれに応え、しかし一歩も近づかない。慰留の身振りも、祝福の言葉もない。ただ、いつもの穏やかな表情で、彼女を見る。
「賢明な判断です」
それだけだった。
称賛ではない。評価でもない。まして引き止めでもない。事実の確認のように、あるいは天候を述べるように、その言葉は落ちた。
廊下に沈黙が戻る。クラウディアは何も答えない。答える必要がなかった。彼は、聞いていないのだから。
バルタザールは理解していた。英雄として名を掲げられることが、どれほど危うい再配置かを。秩序が回復した後、人々が求めるのは感謝ではなく、次の依存先だということを。英雄とは、失敗の予告状であり、責任の受け皿であり、最後に切られるための位置であることを。
だから彼は、止めなかった。
助言もしない。方向も示さない。彼女が舞台を降りる選択を、そのまま通した。否定も肯定もせずに。
クラウディアは再び歩き出す。背後で、彼の気配は遠ざからないが、追ってもこない。
その距離が、すべてだった。
この国で初めて、彼は誰かの選択を操作しなかった。
そしてそれは、彼にできる最大限の理解だった。




