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悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


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Scene 2 推薦 ― 英雄の椅子

応接室は、よく整えられていた。

香炉の煙は強すぎず、窓から差し込む光も、時間を計算したかのように柔らかい。

ここは決して、誰かを責めるための部屋ではない。

誰かを「迎える」ための場所だ。


クラウディアは、勧められた椅子に腰掛けながら、そのことを一瞬で理解していた。


向かいに座るのは、高官が二人。

少し遅れて、教会関係者と貴族代表が加わる。

顔ぶれは穏健で、言葉遣いも丁寧だ。

だが、その配置自体が、すでに結論を語っている。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます」


誰かがそう切り出す。

礼儀正しく、しかし形式的な挨拶。

ここで本題が出ないことは、最初から分かっている。


しばらくは近況の確認が続いた。

王都の安定。

民意の落ち着き。

教会との関係。


――すべてが「うまくいっている」という報告。


そして、その流れのまま、自然に名前が出る。


「今回の一連の整理についてですが……」


一拍、間を置いて。


「あなたの尽力が、大きかったという声が、各方面から上がっております」


クラウディアは、表情を変えない。

驚きもしなければ、否定もしない。

その沈黙を、彼らは「謙虚さ」と解釈したらしかった。


「具体的な功績を挙げる必要はありません」

「皆、理解しています」

「だからこそ――」


言葉が重なる。

それぞれが、少しずつ違う言い回しで、同じ場所に導こうとする。


表彰。

顕彰。

政務参与への就任。


どれも「提案」の形を取っているが、

実際には、並べられた道は一本しかない。


「あなたのような方こそ、国の顔にふさわしい」

「混乱を収めた功労者として、前に出ていただきたい」


誰も命令しない。

だが、誰も別の選択肢を示さない。


クラウディアは、その構図を静かに眺めていた。


(これは報酬ではない)


内心で、そう結論づける。


(次の責任の押し付けだ)


彼女が座らされようとしているのは、

称えられるための椅子ではない。

次に何かが壊れたとき、

「なぜ止めなかったのか」と問われる場所だ。


英雄とは、

秩序が崩れたときの緩衝材。

失敗が起きた瞬間に、

最初に名前を呼ばれる役職。


彼らは善意だ。

少なくとも、自分たちは善意だと信じている。

だからこそ、この椅子は危険だった。


クラウディアは、ゆっくりと視線を上げる。


「――光栄なお話です」


その一言に、場の空気がわずかに緩む。

彼らは、もう半分、成功した気になっていた。


だが、その続きを、彼女はまだ口にしていない。

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