第11話 「悪役令嬢の勝利」Scene 1 英雄扱い ― 用意される“次の物語”
王城の回廊では、いつの間にか同じ言葉が繰り返されるようになっていた。
「結局、あの方がまとめてくださったのでしょう」
「最後に動いたのは、クラウディア様だったと聞きました」
誰も声を張り上げない。
誰も断定もしない。
だが、名前だけは自然に共有されていく。
王子の廃位から数日。
政務局も、貴族会合も、教会の関係者も、ようやく“次の話題”を探し始めていた。
混乱が収束した今、人々が求めるのは原因ではない。
――納得できる「締め」だった。
「彼女がいたから、大事にならなかった」
「もっと混乱してもおかしくなかったのに」
功績の中身を問う者はいない。
どの書類に何が書かれていたか、誰が署名したか。
そんな細部は、もう重要ではなかった。
必要なのは、名前だ。
混乱の終わりに置く、象徴としての名前。
クラウディアという名は、都合がよかった。
強すぎず、弱すぎず。
表に出過ぎず、しかし「何もしていない」とは言い切れない位置。
英雄とは、事実の集合ではない。
秩序が回復したあと、人々が安心して指を差せる“結論”である。
「英雄にするなら、あの方でしょう」
誰かがそう言うと、
周囲は静かに頷いた。
異議は出ない。
なぜなら、誰も具体的な反証を持っていないからだ。
そして何より、人はもう争いを終わらせたかった。
こうして、
クラウディアの知らぬところで、
次の物語は用意され始めていた。
秩序が戻った瞬間、
人は必ず英雄を欲しがる。
それが、安心の代価であるかのように。




