Scene 6 クラウディア ― 勝者ではない者
夜。
屋敷は、すでに眠りについている。
廊下の燭台は半分だけが灯され、壁に落ちる影は不完全なまま揺れている。
書斎の扉を閉める音は、驚くほど小さかった。
クラウディアは一人だった。
机の上には、もう書類はない。
署名された紙も、封をした封筒も、すでに彼女の手を離れている。
ここに残っているのは、片づけられた空間だけだった。
彼女は椅子に腰を下ろす。
深く息をつくこともない。
勝利を噛みしめる仕草もない。
――終わった。
それだけは、事実だった。
だが、その事実は、何かを満たすものではなかった。
胸の奥にあるのは、軽さではない。
重さでもない。
ただ、何も引っかからない空白だった。
(全員、負けた)
その言葉が、静かに浮かぶ。
王子は地位を失った。
善意のまま、役目を終えさせられた。
リリアは名前を失った。
守られたまま、物語から外された。
大臣は、最後まで正しかった。
正しすぎるがゆえに、何も背負わなかった。
そして――
(私も、だ)
クラウディアは自分を数えることを、避けなかった。
彼女は勝っていない。
正義を証明したわけでもない。
報われたわけでもない。
ただ、盤を片づけただけだ。
倒れた駒を起こしもせず、
壊れた盤を修復もせず、
次の一手を示すこともなく。
整えて、終わらせた。
それだけの役目だった。
窓の外では、夜の王都が静かに息をしている。
誰かが敗北を嘆く声もない。
誰かが勝利を祝う声もない。
それが、この結末の性質だった。
クラウディアは立ち上がり、灯りを落とす。
暗闇の中で、彼女は誰の名前も呼ばなかった。
自分の名前さえ、確かめなかった。
勝者がいない夜は、
敗者だけを残して、静かに閉じていく。
そして彼女は知っていた。
これは救いではない。
だが、破滅でもない。
――ただの終わりだ。
何も得られず、
何も誇れず、
それでも、確かに終わったという事実だけが残る。
クラウディアは、その事実と共に、夜の中に立っていた。




