Scene 3 王子レオンハルト ― 廃位という静寂
王城の私室は、驚くほど静かだった。
窓から差し込む朝の光が、机の上の書簡を淡く照らしている。
封蝋はすでに切られていた。
それをしたのが誰なのか、レオンハルトは覚えていない。
ただ、書簡がそこに「置かれていた」ことだけが、現実だった。
文面は丁寧で、礼を失していない。
怒りも、失望も、非難もない。
――統治上の信頼調整。
――今後を考慮し。
「失敗」という言葉は使われていなかった。
「責任」という語も、慎重に薄められている。
そこにあったのは、判断ではなく処理だった。
レオンハルトは椅子に腰掛けたまま、しばらく動かなかった。
怒りは湧かなかった。
涙も出ない。
胸に浮かんだのは、奇妙なほど穏やかな納得だった。
(ああ……そういう役目だったのか)
国のため。
皆のため。
そう言われ続けてきた言葉が、今も自然に思い浮かぶ。
自分は、選ばれていた。
守られていた。
だから、ここで降ろされる。
それが「必要なこと」なのだと、彼は理解してしまった。
書簡を静かに机に置く。
指先は震えていない。
王子レオンハルトは、その瞬間まで、
自分が裁かれたとは思わなかった。
最後まで、
「守られた存在」であると信じたまま――
王子であることを、終えた。




