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Scene 7 締め ― 主人公の錯覚
その日、王都は穏やかだった。
教会の鐘は定刻に鳴り、人々はいつも通りの祈りを捧げ、噂話は昨日より少しだけ薄まっていた。事件は「収束したもの」として語られ、名前を失った責任は、どこかに片づけられたことになっている。
人々は言う。
――彼女が耐えたからだ。
――彼女が清らかだったからだ。
――彼女が、正しかったからだ。
リリアの名は、いつの間にか説明の代わりになっていた。
複雑な経緯も、誰かの意図も、曖昧な調整も、すべてを包んでしまう便利な言葉として。
一方で、決定が下された場所は別にある。
書類の上。
配置換えの一覧。
「自然な流れ」という一文。
そこには彼女の署名も、意思も、存在しない。
彼女は守られていた。
称えられ、隔離され、丁寧に扱われていた。
だからこそ、信じてしまったのだ。
自分が中心にいるのだと。
自分の沈黙が、選択だったのだと。
だが物語の主人公とは、
物語を動かしている者ではない。
もっとも多く語られ、
もっとも守られ、
もっとも理解したつもりになる者だ。
だからこそ――
彼女だけが、気づいていなかった。
これは、
自分の物語ではない、ということに。




