Scene 6 観測者としての大臣
広間の端。
人の輪が幾重にも重なり、最も賑やかな中心からは少し離れた場所。
バルタザール大臣は、そこにいた。
「殿下もお若くなられましたな」
相手は、同年代の貴族。
言葉は穏やかで、どこにも棘がない。
「ええ、ええ。あのご令嬢方も実に素晴らしい」
褒める。
否定しない。
誰の名前も、特別に出さない。
相槌は正確で、感情を乗せない。
まるで、この場のすべてが予定通りであるかのように。
バルタザールは、ワイングラスを軽く傾けながら、
視線だけを、広間の中央へ滑らせた。
王子。
淡い色の令嬢。
黒いドレスの令嬢。
その配置を、
人ではなく、盤上の駒を見るように眺める。
――まだ、何もする必要はない。
彼の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
そのときだった。
視線が、ふと交差する。
クラウディア。
一瞬。
ほんの刹那。
互いに、言葉を交わさない。
礼もない。
表情も変わらない。
だが、理解だけが通過する。
――見ている。
――知っている。
それ以上でも、それ以下でもない。
次の瞬間、
バルタザールは視線を外し、再び会話へ戻る。
「若い世代が活躍する時代ですな」
そう言って、笑う。
誰も、その言葉を疑わない。
誰も、その笑顔の裏を測らない。
この夜、
最も動いていない男が、
最も多くを把握していることを、
知る者はいなかった。
音楽は続き、
物語は、勧善懲悪の顔をしたまま、幕を下ろす。




