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悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


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Scene 3 クラウディア ― 沈黙が続く理由

場所は定めない。

屋敷の奥か、王都の人波から少し外れた通りか。

いずれにせよ、そこは「誰も彼女を必要としない場所」だった。


クラウディアは、何も語らない。


王子の女関係が公になったことについても。

その処分が軽すぎるという声についても。

リリアが称賛され、象徴として扱われていることについても。


誰かがそれとなく意見を求めれば、

彼女はただ短く返す。


「存じません」

「判断できる立場ではありません」


それ以上の言葉は、添えない。


内心では、状況を正確に把握していた。


――まだ、彼女は切れない。

――今動けば、“物語の敵”になる。

――沈黙は、最も疑われない行動だ。


今、世界は一つの物語を信じている。

耐えたヒロイン。

軽率だった王子。

それを穏やかに収めた大人たち。


その構図が崩れていない限り、

誰かが異を唱えれば、

それは「空気を壊す存在」になる。


クラウディアは、その役を引き受けない。


結果として、

彼女の沈黙は別の意味に翻訳され始めていた。


――敗北したのだ。

――もう力はないのだ。

――恐れて、引いたのだ。


噂はそう整理する方が楽だった。


クラウディア自身は、それを否定しない。

訂正もしない。


沈黙が、

無関心や敗北に見えるときほど、

それは最も安全で、最も自由な位置になる。


彼女は、まだ盤から降りていない。

ただ、手を伸ばしていないだけだった。


この世界が、

次にどの物語を欲しがるのか――

それを見極めるために。

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