Scene 6 クラウディア ― これは最初だと知る者
夜の王都は、静かだった。
昼間のざわめきが嘘のように、灯りだけが規則正しく並び、石畳に淡い影を落としている。
クラウディアは窓辺に立ち、外を見ていた。
王子の噂が「事実として処理された」ことは、すでに耳に入っている。
――女関係。
――軽率。
――反省。
どれも、彼女にとっては新しい情報ではなかった。
驚きはない。
胸を撫で下ろすこともない。
ただ、静かに確認する。
(やはり、ここから来た)
一番目立つ存在。
善意を振りかざし、光の中に立ち続けた王子。
象徴ではあるが、物語そのものではない男。
切りやすい。
誰もが「仕方ない」と思える。
誰もが「これで終わる」と信じられる。
(本命を守るための、緩衝材)
クラウディアは理解していた。
この失脚は、罰ではない。
調整でもない。
合図だ。
誰かが、盤を動かし始めたという合図。
誰かが、「裁きの順番」を決めたという証明。
(これは前菜だ)
まだ、血の味はしない。
まだ、誰も泣き叫ばない。
だからこそ、危険だった。
彼女は目を閉じる。
沈黙を続けてきた理由が、また一つ正しかったと確信する。
今、動けば――
王子と同じ位置に立つだけだ。
切られる側として。
クラウディアは、何もしない。
ただ、次に誰が呼ばれるかを考える。
そして、誰が最後まで呼ばれないかを。
夜の王都は、相変わらず平穏だった。
まるで、何も始まっていないかのように。
だが彼女だけが知っている。
――これは、最初だ。




