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悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


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Scene 9 終幕 ― 何も起きなかった夜

晩餐会は、滞りなく終わった。


最後の料理が下げられ、燭台の火が少しだけ落とされる。

人々は立ち上がり、礼を交わし、穏やかな声で別れを告げ合った。

誰一人として声を荒げず、誰一人として問い詰めず、誰一人として真実を口にしなかった。


王子レオンハルトは、満足そうに微笑んでいた。

「良い夜だったな」

その言葉に、誰も異を唱えない。

笑顔が返り、安堵が連鎖し、空気は最後まで祝宴のままだった。


リリアは人々に見送られ、感謝の言葉を浴びながら静かに退出する。

彼女の沈黙は、最後まで清らかさとして解釈された。

何も語らなかったことが、何よりも雄弁だった。


フィリップは、懐に手を当てる。

そこにあるはずの重みを確かめるように、ほんの一瞬だけ指を止める。

そして、何事もなかった顔で会釈をし、流れに紛れて去っていく。

誰にも渡していない。

だが、誰にも渡せなくなったことを、彼自身が一番よく理解していた。


補佐官ヘルマンは、最後まで言葉を発しなかった。

ただ、退出していく背中を一つずつ目で追う。

記憶ではない。

記録のためでもない。

確認だ。

——すでに決まっている配置が、今夜も崩れていないことの。


大臣バルタザールは、少し遅れて席を立つ。

若者たちの背を見送り、満足そうでも不満そうでもない顔で頷いた。

何もしなかった。

それが、この夜における唯一の調整だった。


クラウディアは、最後に席を離れた。

何も動かさず、何も語らず、何も奪わなかった。

だが彼女は知っている。

この夜、証拠は動かなかったのではない。

**「誰が持っていることになったか」**が、静かに確定したのだと。


この夜、

誰も告発されなかった。

誰も裁かれなかった。

誰も悪者にはならなかった。


だが、

誰が落ちるかは、

もう全員が知っていた。


それを人は、

「平穏な晩餐会」と呼ぶ。

あまりにも静かで、

あまりにも完成された、

何も起きなかった夜として。

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