Scene 4 リリア ― 象徴の檻
リリアは、ひとりで立っているつもりだった。
だが実際には、常に誰かに囲まれていた。
白を基調とした衣装の彼女の周囲には、教会関係者が自然な配置で立ち、市民代表が順番に頭を下げていく。感謝の言葉は途切れることなく、祈りのように、祝詞のように重なっていった。
「あなたの存在が、私たちを救いました」
「清らかな心が、王都を鎮めたのです」
「涙は、何より雄弁でした」
そのたびに、リリアは小さく微笑む。
否定しない。
だが、肯定もしない。
──何も、決めていない。
彼女の内側で、その言葉だけが繰り返されていた。
何を信じるかも。
誰を許すかも。
何を正しいとするかも。
選んでいない。
選ばされているだけだ。
誰かが、彼女の「涙」を語り始める。
「あのとき、彼女は泣いていた」
「声を荒げず、ただ静かに」
「それが、争いを止めたのです」
語られているのは、彼女の記憶ではない。
彼女の行動でもない。
“物語”だ。
リリアは、その話題の中心にいながら、当事者ではなかった。
証言者でもない。
ただの装飾品。
沈黙は、勝手に意味を与えられ、
躊躇は、清らかさへと翻訳され、
迷いは、美徳として磨き上げられる。
誰も、彼女に問いかけない。
「どうしたいのか」と。
問いは不要なのだ。
象徴は、答えを持たない方が美しい。
リリアは気づいていた。
この場所が、安全であることを。
同時に、逃げ場がないことも。
彼女は守られている。
そして、閉じ込められている。
それは、黄金で飾られた檻だった。




