Scene 3 王子レオンハルト ― 無自覚な主役
王子レオンハルトは、長いテーブルの中央で微笑んでいた。
燭台の炎が揺れるたび、金糸の刺繍が施された正装が柔らかく光を返す。杯を持ち上げれば、誰かが必ず視線を向け、誰かが必ず応える。彼はそれを「自然なこと」だと思っていた。
(良い夜だ)
そう、心から思っている。
誰も険しい顔をしていない。
誰も声を荒らげていない。
争いは終わり、誤解は解け、王都は再び一つになった――そんな空気が、確かにここにはあった。
「今日は本当に、皆の協力に感謝している」
そう言って杯を掲げると、貴族たちは一斉に応じる。
騎士たちは背筋を伸ばし、教会関係者は穏やかにうなずく。
誰も反論しない。
誰も異を唱えない。
(力を使わずに済んだ)
それが、彼の誇りだった。
剣を抜かず、血を流さず、説得と配慮で事態を収めた。
王とは、こうあるべきだ。
暴力に頼らず、皆が納得する形で終わらせる存在。
「殿下のおかげです」
「見事なご判断でした」
そんな言葉が、次々と彼の元へ届く。
レオンハルトは、ただ穏やかに笑う。
自分が何かを“決定的に失わせた”かもしれないなど、考えもしない。
彼の視界には、笑顔しか映っていなかった。
――誰が沈黙しているか。
――誰が目を伏せているか。
――誰が話題から外されているか。
それらはすべて、「些細なこと」だった。
(皆が安心している)
その事実だけで、彼には十分だった。
だから気づかない。
この晩餐会が、王子を中心に回っていることに。
視線も、会話の流れも、沈黙の意味すらも、すべてが彼の存在を基準に配置されていることに。
彼は主役であり、
同時に――
自分が舞台の中心に立っていることを、最後まで理解しない役者だった。




