Scene 2 クラウディア ― 観察者の席
クラウディアの席は、晩餐会の端にあった。
主賓からも、王子からも、教会関係者からも、わずかに距離がある。
意図的に用意された配置だったが、彼女はそれを不満には思わなかった。
むしろ、好都合だった。
皿に盛られた料理に手を伸ばし、静かに食べる。
味は悪くない。だが、味わうことが目的ではない。
彼女の意識は、常に周囲に向いていた。
誰が誰を見ているか。
誰が誰を見ないようにしているか。
視線が交差する瞬間と、逸らされる瞬間。
王子レオンハルトは、席の中央で笑っている。
英雄の席だ。彼自身がそう信じ、周囲もまたそう扱っている。
だが彼の視線は、無意識のうちにリリアへと流れ続けていた。
リリアは祝福の象徴として、柔らかな光の中にいる。
教会関係者の近く。
彼女の沈黙は、今や「清らかさ」として解釈される。
若手貴族フィリップは、乾杯の声に合わせて笑いながら、
ちらりとクラウディアの方を見て、すぐに視線を外した。
(触れない)
それが、彼の選択だとわかる。
大臣バルタザールは、会話の輪を渡り歩くことなく、
その場に「在る」だけで空気を整えていた。
否定もしない。
肯定もしない。
だが、誰も彼を無視できない。
クラウディアは、ナイフとフォークを置き、グラスに口をつける。
自分は、何も動かしていない。
噂を否定していない。
真実を語っていない。
証拠を示していない。
――だからこそ、ここにいる全員が、勝手に動く。
フィリップの慎重な距離。
王子の善意に満ちた自己肯定。
教会の象徴化。
大臣の沈黙。
情報は、彼女の手を離れたところで、形を変え続けている。
(今、動いているのは誰か)
答えは明確だった。
自分ではない。
彼女はただ、観ている。
誰が誰に近づき、
誰が誰から離れ、
そして――
どの瞬間に、証拠の所在がすり替わるのかを。
クラウディアは、もう一度だけ周囲を見渡し、
何事もなかったかのように食事を続けた。
この晩餐会で、暴露は起きない。
だが、
何かが、確実に移動している。
それを見逃さない者は、
この広間で、彼女ただ一人だった。




