Scene 4 小さな衝突(誤解)
広間の中央から少し外れた場所で、
リリアは立ち止まった。
ふと顔を上げた先に、
黒いドレスの背中が見える。
クラウディアだった。
距離は近い。
声をかけるほどではなく、
しかし無視するには、視界に入ってしまう距離。
リリアは一瞬迷い、
それから静かに姿勢を正した。
深くはない。
けれど、丁寧な一礼だった。
周囲の視線が、
その小さな動きを捉える。
クラウディアは、気づいていた。
視線の端で、
淡い色のドレスが動いたのを、確かに見ている。
だが、その目はすぐに別の方向へ移った。
広間の奥。
人の流れの向こうに、
一瞬だけ現れた顔を追っていた。
それだけだった。
返礼はない。
ほんの数秒の沈黙が、
不自然な長さを持つ。
「……今の、見た?」
誰かが、小さく囁く。
「挨拶を、無視したわ」
別の声が、確認するように続く。
リリアは、顔を上げる。
何も起きていないという表情で、
ゆっくりと身を引く。
困ったように微笑むことも、
悲しげに俯くこともない。
ただ、そこにいなかったかのように、
人の輪へ戻っていく。
残されたのは、
黒い背中と、ざわめきだけだ。
「やっぱり、あの方は……」
言葉の続きを、
誰も口にしない。
しなくても、意味は共有されていた。
クラウディアは、
背後で起きた評価の確定を知らない。
あるいは、
知っていても、振り向かない。
その沈黙は、
弁明ではなく、拒絶と受け取られた。
何もしていないのに、
印象だけが、
彼女を悪者に仕立て上げていく。




