第7話 「晩餐会」 Scene 1 開幕 ― 平和の象徴としての晩餐会
王城の大広間は、柔らかな光に満ちていた。
天井から吊るされた無数の燭台が、金色の揺らめきを床に落とし、磨き上げられた長卓には白い布が一分の乱れもなく敷かれている。
それは誰の目にも、祝宴だった。
最近まで王都を覆っていたざわめきは、今夜だけは遠い出来事のように扱われている。
人々は微笑み、杯を掲げ、互いに軽い冗談を交わす。
席順は慎重に、だが巧妙に整えられていた。
親しい者同士は近くに、緊張を孕む関係は距離を保って。
王子レオンハルトが主催者として中央に座り、朗らかな表情で周囲に視線を配っている。
その隣には教会の高位聖職者。
少し離れた位置に、大臣バルタザールが静かに杯を傾けていた。
誰もが理解していた。
この晩餐会の名目が、「最近の騒動を乗り越えた記念」であることを。
同時に、誰もが理解しないふりをしていた。
――何一つ、完全には終わっていないという事実を。
それでも空気は穏やかだった。
教会が黙認し、王子が主催し、大臣が同席している。
それだけで、この場は「正しい」と見なされる。
誰かが声を上げて笑う。
別の誰かがそれに応じる。
音楽が流れ、給仕が静かに皿を運ぶ。
参加者たちは、無意識のうちに共有していた。
今夜は、疑わない夜だ、と。
過去を蒸し返さない。
余計な言葉を選ばない。
空気を壊さない。
そうすることで、この場は祝宴であり続ける。
誰もが安堵していた。
――「もう終わった話」なのだ、と。
だが、その安堵こそが、この晩餐会の唯一の条件だった。
それが崩れない限り、ここでは何も起きない。
そして、何も起きないことこそが、最大の異常だった。
燭台の炎は揺れている。
笑顔も、言葉も、完璧に整っている。
この夜は、平和の象徴として、静かに幕を開けた。




