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悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


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Scene 5 リリア ― 清らかな象徴の危うさ

同じ紙の上に、

 もう一つの名があった。


 リリア。


 補佐官ヘルマンは、視線を落としたまま、

 その行を追う。


 《象徴性:極めて高》

 《支持基盤:教会・民衆》

 《本人の意思:弱い》

 《想定リスク:物語の反転時》


 評価は、どれも事実だった。


 彼女は清らかだ。

 少なくとも、そう“見える”。


 教会が祝福し、

 民衆が安心し、

 王子が守った。


 それらが積み重なり、

 彼女は一人の少女であることをやめた。


 象徴になった。


 だからこそ、今は守る。


 記録にも、

 排除や失脚を示す言葉はない。


 むしろ、

 「保全」の対象だ。


 だが、ヘルマンは知っている。


 象徴は、永続しない。


 物語が変われば、

 象徴は重くなる。


 重くなった象徴は、

 必ず誰かの手を塞ぐ。


 その瞬間、

 守られていた存在は、

 真っ先に切られる。


 ――物語の反転時。


 その一行が、

 すべてを語っていた。


 ヘルマンは、内心で静かに結論づける。


 「彼女もまた、使われている」


 善意の象徴として。

 安心の装置として。

 責任を曖昧にするための、

 柔らかな壁として。


 だから、いずれ記録は変わる。


 評価が、

 判断が、

 処理方針が。


 それは彼女の行動次第ではない。


 物語の都合次第だ。


 ヘルマンはペンを置き、

 紙をそっと重ねる。


 リリアの名は、

 今は守られている。


 だが同時に、

 次の章で裁かれる可能性を、

 確かに秘めていた。

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