Scene 4 大臣バルタザール ― 若者たちを褒める
控えの間は、落ち着いた空気に満ちていた。
豪奢ではない。
だが、長く使われてきた部屋特有の安心感がある。
若い貴族たちが、
自然と大臣バルタザールの周囲に集まっていた。
彼は、誰よりも年長で、
誰よりも穏やかな顔をしている。
「殿下のご判断は、実に見事でしたな」
低く、よく通る声。
否定も、条件もつかない。
ただの称賛。
王子は、わずかに照れたように微笑む。
「いえ……当然のことをしたまでです」
バルタザールは、ゆっくりと頷いた。
「それができる若者は、案外少ないものです」
視線が、若手貴族たちへと移る。
「皆さんも、よく考えて行動しておられる」
一人一人の名を呼ぶことはしない。
だが、全員が自分のことだと思える距離感。
「国を思い、
場を荒立てぬよう配慮する」
「実に、頼もしい」
誰も否定されない。
誰も修正されない。
意見が違っていても、
沈黙していても、
流れに乗っていても。
すべてが、
「良い判断」の中に含まれる。
「未来は、明るいですな」
その一言で、
場の空気が完成する。
安堵。
誇り。
そして、免責。
ここにいる誰もが、
もう一度考え直す必要を感じなくなる。
バルタザールは、
助言をしない。
指示もしない。
だからこそ、
誰の責任でもない。
誰かが間違っていたとしても、
それは「結果論」になる。
彼は、若者たちを止めなかった。
それだけで、
すべてが固定された。
善意は、
修正されないまま保存される。
それが、
最も扱いやすい形だからだ。
バルタザールは微笑んでいた。
誰にも気づかれないように。
誰も疑わないように。




