Scene 3 若手貴族フィリップ ― 勝ち馬を読むゲーム
その集まりは、あくまで私的なものだった。
格式張った謁見でも、公式の宴でもない。
ただ、若い貴族たちが集まり、
酒と軽い会話を交わすだけの場。
だからこそ、本音が出る。
フィリップは、笑顔を貼り付けたまま、
杯を傾けていた。
話題は自然と、最近の出来事に流れる。
教会の祝福。
殿下の判断。
王都に戻った平穏。
「よかったよな」
「大事にならなくて」
誰かがそう言うと、
全員が曖昧に頷いた。
フィリップも、もちろん頷く。
――そうだ、よかった。
心の中で、別の計算が走る。
殿下が動いた。
教会が祝福した。
この二つが揃ったなら、
流れは決まったも同然だ。
正しいかどうかは、
今は関係ない。
勝つかどうか、だ。
「最近、リリア様はお忙しそうだ」
誰かの言葉に、
フィリップは少し声を弾ませる。
「ええ、でも……立派ですよね。
あんなことがあっても、静かに振る舞って」
安全な賛辞。
誰も否定しない。
それが、答えだ。
クラウディアの名が、
一瞬、話題に上りかける。
「……あの方は」
フィリップは、無意識に視線を逸らした。
今は、触れない方がいい。
噂の中心。
殿下が庇った相手の“反対側”。
近づけば、
自分まで何かを背負わされる。
彼は、まだ何もしていない。
切り捨ててもいない。
ただ、距離を置いただけだ。
――賢い選択だ。
そう、自分に言い聞かせる。
殿下と教会が味方なら、
間違いは起きない。
流れに逆らわなければ、
波は自分を運んでくれる。
フィリップは、杯を掲げる。
「殿下に」
誰かが続く。
「リリア様に」
乾いた音が、空気を揺らす。
その中に、
不在の名があることを、
誰も指摘しない。
悪意はなかった。
ただ、
勝ち馬を見誤りたくなかっただけだ。




