Scene 3 高慢な沈黙
音楽は続いていた。
だが、広間の空気がわずかに張りつめる。
入口に、人影が現れた。
クラウディア・フォン・ローゼンベルク。
黒を基調としたドレスは、夜の色に近い。
光を吸い込むような布地に、過剰な装飾はない。
それは華やかさを拒むのではなく、必要としない選択に見えた。
彼女は立ち止まらない。
歩調は一定で、周囲に合わせる気配もない。
誰かが、息を吸う音がした。
会話が一瞬だけ途切れる。
「……ごきげんよう、ローゼンベルク嬢」
先に声をかけたのは、年若い貴族だった。
期待と緊張が混ざった声。
クラウディアは足を止め、そちらを見た。
「ごきげんよう」
それだけだった。
声は低く、抑揚がない。
感情を乗せる余地を、最初から用意していない。
彼女はそれ以上何も言わず、
視線を外して歩き出す。
取り残された空気が、微妙に重くなる。
「相変わらず……」
誰かが、言いかけて飲み込む。
別の誰かは、わずかに眉をひそめ、
「無礼だ」とは言わずに、そう思う。
クラウディアは、
自分に向けられた視線を背中に感じながら、
何も変えずに進む。
笑顔はない。
言い訳もない。
ただ、沈黙だけが残る。
その沈黙は、
理解される努力を、最初から放棄しているように見えた。
だから人々は、
理由を探さず、結論だけを選ぶ。
――高慢な女だ。
誰も、彼女が何を考えているかを問わない。
問わないまま、
彼女を遠ざける理由として、それで十分だった。




