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悪者――『誰も清くない王国で』  作者: 南蛇井


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第5話 「善人ごっこ」 Scene 1 教会の祝福 ― 清らかな象徴の誕生

王都大聖堂は、白い光に満ちていた。


 高い天窓から差し込む朝の陽が、

 色鮮やかなステンドグラスを透かし、

 床に柔らかな模様を落としている。


 人々は声を潜めていた。


 市民。

 下位貴族。

 誰もが、この場の意味を正確には理解していない。


 だが、理解する必要もなかった。


 ――これは、良いことなのだ。

 そう感じさせる空気が、すでに整っていた。


 祭壇の前に立つ聖職者が、穏やかな声で語り始める。


 「最近、王都では小さな騒動がありました」


 非難でも、断罪でもない。

 ただ、事実を包み込むような口調。


 「多くの者が心を痛め、

 不安と戸惑いの中にありました」


 聖職者は一歩下がり、

 その隣に立つ少女へ視線を向ける。


 リリア。


 控えめな白の装い。

 祈りの場に相応しい、慎ましい佇まい。


 彼女は、前に出すぎない。

 だが、隠れもしない。


 「清らかな心は、争いを鎮めます」


 聖職者の言葉が、

 大聖堂の天井に静かに反響する。


 「あなたの沈黙と涙は、

 多くの人々を救いました」


 ざわめきが、かすかに走る。


 誰も反論しない。

 誰も疑問を口にしない。


 リリアは、何も言わなかった。


 否定しない。

 肯定もしない。


 ただ、静かに目を伏せ、

 祈りの姿勢を崩さない。


 それで十分だった。


 言葉を重ねる必要はない。

 ここに立っているという事実が、

 すでに答えになっている。


 人々は、彼女を見る。


 一人の少女としてではなく、

 “清らかな何か”として。


 誰かを傷つけたかもしれない噂も、

 誰かが失った立場も、

 この光の中では、意味を持たない。


 大聖堂に響く鐘の音が、

 祝福の終わりを告げる。


 人々は安堵したように息を吐いた。


 よかった。

 正しい人が、正しく扱われた。


 そうして、誰も気づかない。


 この瞬間から、

 彼女を疑うことが、

 ひどく無粋な行為になったことに。


 リリアは、

 守られるべき存在から、

 守らねばならない象徴へと変わった。


 それを、人は祝福と呼んだ。


次は

**Scene 2「王子の英雄気分 ― 剣を振るわなかった勇者」**を小説化しますが、

王子視点寄りで内面を強めますか、

それとも第三者視点で滑稽さを強調しますか。

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