第4話 「悪役令嬢の沈黙」 Scene 1 静かな朝 ― 情報の最終確認
朝は、静かだった。
書斎の窓から差し込む光は柔らかく、埃一つ動かない。
王都がどれほど騒がしくとも、この部屋までは届かない――それを知っていて、私はここにいる。
「以上です」
家臣の報告は短い。
余計な感想も、慰めもない。
社交界の噂は定着した。
王子殿下の“ご配慮”は美談として語られている。
事態の沈静化は、バルタザール大臣が主導した。
新しい情報は、一切ない。
私は頷く。
それで十分だった。
予想通りだ。
驚きも、落胆もない。
噂は、偶発ではない。
誰かが嘘をついたわけでもない。
善意が切り取られ、編集され、消費された結果だ。
命令は、書かれていない。
だから、誰も命じていないことになっている。
剣が動いたのは、忠誠の解釈の結果。
そして――
止めた者は、守る気などなかった。
沈静化とは、保護ではない。
これは「温存」だ。
私は机の上の書類に目を落とす。
そこに記されているのは、どれも表向きの事実だけ。
処罰はない。
罪状もない。
だが、招待状もない。
何も起きていないからこそ、何も戻らない。
「下がっていいわ」
家臣が一礼し、扉を閉める。
足音が遠ざかると、再び静寂が戻った。
世界は、私の想定通りに動いている。
この静けさは、敗北ではない。
ただの確認作業だ。
盤はすでに並び、
駒はすでに動き、
そして――私は、まだ触れていない。
動くのは、もう少し後でいい。




