Scene 6 血の流れなかった結末
結論として、事件は起きなかったことになった。
クラウディアは釈放された。
拘束の記録はなく、罪状も存在しない。
形式上、彼女は無事だった。
だが、邸宅の門を出ることは控えるよう求められ、
社交の招待状は途絶え、
誰かと会うには、必ず誰かの“配慮”が必要になった。
行動の自由は、音もなく削られていく。
名誉について語る者はいない。
回復の手続きも、謝罪も、訂正もなかった。
なぜなら――
何も起きていないのだから。
「殿下が止めてくださったそうよ」
「もっと大事になるかと思ったけれど……良かったわね」
人々は安堵し、胸を撫で下ろす。
血が流れなかったことが、すべての証明になる。
誰も倒れていない。
誰も泣き叫んでいない。
だから、誰も傷ついていない。
そういうことになっている。
クラウディアは、今日も静かな屋敷にいる。
以前と変わらぬ姿勢で、変わらぬ表情で。
ただ、彼女を取り巻く世界だけが、違っていた。
呼ばれない。
聞かれない。
語る場が、存在しない。
すでに、剣は振り下ろされている。
斬られたのは、肉体ではない。
立場であり、可能性であり、
未来に続くはずだった選択肢だ。
それでも、血は流れなかった。
剣は抜かれた。
ただ、血が流れなかっただけだ。
それを、人は「平和」と呼んだ。




