Scene 2 騎士ガイウス ― 剣を抜く男
騎士詰所の空気は、いつもより張りつめていた。
鉄と油の匂い。磨かれた鎧が整然と並び、規律そのものが形を持って立っている。
ガイウスは机の前に立ち、王子の言葉を反芻していた。
――場を荒立てる者がいる。
――これ以上、被害者を出したくない。
命令ではなかった。
指示でもない。
だが、方向ははっきりしている。
騎士とは、迷わない者のことだ。
善悪を量るのではなく、示された方向へ剣を振るう存在。
(殿下は、民を思っておられる)
ガイウスは疑わなかった。
王子が正義であることを、信じてきた。
だから、その言葉を“解釈”する必要などなかった。
机の上には、何もない。
令状も、正式な通達も。
だが、彼は立ち上がる。
「事情を聞く必要がある」
それだけで十分だった。
部下の騎士たちは顔を見合わせるが、誰も異を唱えない。
王子の名は、すべての疑問を封じる。
「行動は控えていただく」
「接触は、当面制限する」
その言葉は、柔らかく、理性的だ。
拘束ではない。
強制でもない。
だが、拒否の余地は存在しなかった。
(殿下は血を望んでいない)
だから、ガイウスは剣を抜かない。
腰に下げたまま、ただ――見えない刃を振るう。
正式な手続きは後でいい。
秩序を守ることが先だ。
彼にとって、それは違法ではない。
正義の先行だった。
詰所の扉を開けると、春の光が差し込む。
その明るさが、行為を清めるように錯覚させる。
ガイウスは一歩、外へ踏み出した。
剣はまだ、鞘の中にある。
だが――
最初に斬られたのは、法だった。




