第3話 「王子の選択」 Scene 1 王子の公的庇護 ― 正義の宣言
王城の中庭は、春の光に満ちていた。
噴水の水音が規則正しく響き、白い石畳には貴族たちの影が重なっている。ここは誰の目からも逃れられない場所――だからこそ、言葉は意味以上の力を持つ。
人々がざわめく中、その中心に王子レオンハルトが現れた。
彼は、迷うことなく一人の少女の隣に立った。
ヒロイン、リリア。
意図的な距離。近すぎず、しかし明確に「庇護の位置」。
それだけで、周囲の視線が集まる。
王子が誰を選び、誰を守るのか――答えはすでに示されていた。
レオンハルトは微笑を浮かべ、穏やかな声で語りかける。
「彼女は、誰かを傷つけるような人ではない」
声は大きくない。
だが、沈黙がそれを増幅した。
貴族たちは息を潜め、騎士たちは背筋を伸ばす。
この場で発せられる言葉は、私的な感想ではない。
王子の言葉は、判断であり、方向であり、裁定だった。
「これ以上、心ない噂が続くことは――許さない」
否定は、名指しではなかった。
誰の噂か、誰の行為か、名前は一切出ない。
それでも、誰もが理解する。
今この瞬間、
“悪”として置かれた席が、どこにあるのかを。
人々の視線が、無意識のうちに一方向へ流れる。
そこに当人はいない。
だが、不在こそが罪を確定させる。
「……殿下が、あそこまで仰るとは」
「やはり、例の件は……」
囁きは小さく、しかし確信に満ちていた。
もはや噂ではない。
これは“王子の見解”であり、“王家の空気”だ。
リリアは一歩下がり、深く頭を下げる。
「……ありがとうございます、殿下」
声は震え、控えめで、感謝に満ちている。
誰もがそれを美徳と受け取った。
王子は満足げに頷き、再び前を向く。
こうして、剣は抜かれた。
音もなく、血も流れず、
ただ――善と悪の境界だけが、静かに引かれたのだった。




