Scene 6 立場固定
語られる声は、いつも同じ方向から届く。
侍女たちの囁き。
王子の慰め。
街に広がる、善意を装った同情。
そこに、矛盾はない。
なぜなら、
反対側の声が、最初から用意されていないからだ。
クラウディア・フォン・ローゼンベルクの視点は、
一度も示されない。
弁明の言葉も、
誤解を解こうとする場面も、
存在しない。
彼女は、
語られる存在であって、
語る存在ではなかった。
物語は、自然に流れる。
守られるべき者がいて、
危険な者がいる。
疑う理由は、与えられない。
読者は、気づかぬうちに頷く。
――リリアを守らなければ。
彼女は、弱く、傷ついている。
涙を流し、否定もできない。
――クラウディアは、危険だ。
冷たく、厳しく、
人を追い詰める。
そう“知らされている”。
ここで重要なのは、
その判断が、強制されていないことだ。
誰も、
「そう思え」とは言っていない。
ただ、
そう思う以外の材料が、
与えられていないだけだ。
物語は、
読者を裁判官にしない。
陪審席に座らせ、
片側の証言だけを聞かせる。
そして、
結論に至ったとき、
それを“自分の判断”だと錯覚させる。
こうして、
噂は物語になり、
物語は常識になる。
読者は、
もう無関係ではいられない。
信じた瞬間、
噂の共犯者になるのだから。




