Scene 4 クラウディアの過去 ― 切り取られる記憶
噂は、現在だけを語らない。
過去を連れてくる。
ただし、必要な部分だけを。
「昔から、そういう方だったのよ」
誰かが、そう言う。
それを聞いた者は、
思い出す。
――使用人を、厳しく叱った場面。
あの日、
銀食器が落ち、床に傷がついた。
「次は、気をつけなさい」
声は冷たかった。
使用人は、涙を浮かべた。
それだけが、残る。
なぜ叱ったのか。
同じ失敗が三度目だったこと。
怪我人が出かねなかったこと。
そうした理由は、
噂の中には入らない。
「泣かせたのよ」
短く、分かりやすく。
別の記憶も、呼び出される。
――社交の場で、
差し出された笑顔を、受け取らなかった夜。
「今は、その話題に興味がありません」
丁寧な拒絶。
だが、残るのは結論だけだ。
「見下した」
そう呼ばれる。
さらに、もう一つ。
――規則を守らせた出来事。
期限を過ぎた提出書類。
特例を求める声。
「例外は認められません」
その一言。
公平さを保つためだった。
だが、噂は違う名を与える。
「横暴だった」
こうして、
点だった出来事が、
一本の線になる。
冷たい。
厳しい。
融通が利かない。
線は、やがて像になる。
――冷酷な令嬢。
誰も、嘘を言っていない。
すべて、実際に起きたことだ。
ただし、
選ばれた部分だけが、
何度も、何度も語られる。
語られない理由は、
存在しなかったことになる。
噂は、そうして歴史を作る。
クラウディア・フォン・ローゼンベルク。
彼女の過去は、
誰かの口の中で、
最も理解しやすい形に、整えられていった。
正しさも、事情も、
そこにはもう、置き場がなかった。




