Scene 3 情報屋ルーク ― 噂を“売れる形”にする男
昼前の酒場は、半端な時間帯だった。
朝の喧騒が去り、
夜の熱気にはまだ遠い。
ルークは、その曖昧な時間を好む。
情報は、
人が油断しているときに集まるからだ。
カウンターに肘をつき、
彼は酒ではなく、水を口に含んだ。
頭は、常に冷やしておく。
「……で?」
向かいの男が、声を潜める。
「社交会の話だ」
ルークは、頷く。
昨夜から、何度も聞いた。
だが、同じ話は一つとしてない。
「例の令嬢が、また、ってやつか」
男は言葉を濁す。
それで十分だった。
ルークは、頭の中で整理する。
――少し厳しい。
――人前で言葉を選ばない。
――距離を置かれている。
どれも、事実だ。
問題は、
どう並べるか、だけ。
ルークは、別の席に移る。
今度は、裏路地から入ってきた商人だ。
「知ってるか?」
ルークは、軽く笑う。
「もちろん」
そして、要約する。
「昔から冷酷で有名だろ」
嘘は言っていない。
“冷酷”という評価は、
誰かがすでに使っていた。
“昔から”という時間軸も、
一度きりを、複数に伸ばしただけだ。
誇張するのは、
回数と、印象。
事実の骨格は、そのまま。
「やっぱりな」
商人は、納得したように息を吐く。
疑わない。
疑う理由が、ない。
ルークは、心の中で値踏みをする。
――速い。
――軽い。
――よく転がる。
良い噂だ。
正確さは、
売り物ではない。
必要なのは、
広がること。
彼は、最後にもう一言だけ添える。
「今回も、被害者が出たらしい」
誰が、とは言わない。
だが、皆、知っている顔を思い浮かべる。
ルークは、それ以上を語らない。
沈黙が、続きを補完するからだ。
酒場を出ると、
裏路地の風が冷たい。
噂は、
彼の手を離れた。
あとは、
街が勝手に育てる。
ルークは、振り返らない。
真実かどうかは、
最初から問題ではなかった。
――売れる形かどうか。
それだけが、
彼の仕事の基準だった。




