モチよりソフトクリームだろ!
遠い遠い宇宙の月。
その中には月の女神様にお仕えする神使、
モチつきウサギが暮らしている。
おいしいモチをこさえるべく、モチつきウサギ達は今日もえっさほいさと働いていた。
そこに若いモチつきウサギが現れる。
仕事もしないで何やら屋台を引いてきた。
そして叫んだ。
「モチよりソフトクリームだろ!!」と。
周囲のウサギ達は一瞬、若ウサギの方を見たものの、やれやれといった様子でモチつきに戻る。
若ウサギの奇行は彼らにとって珍しいことではないようだ。
そんな中、一匹のウサギが若ウサギの屋台にやって来た。若ウサギの叔父ウサギだ。
「また妙なことを始めて…今度は何に影響されたんだ?」
「オレ、ソフトクリーム職人になる」
「ソフトクリームってなんだ」
「甘くて冷たくておいしいやつ。今作るから待ってて!」
若ウサギは屋台に備え付けたソフトクリームマシーンを起動する。
土台となるコーンを手に持って、マシーンから出てくる白いソフトクリームをキャッチしながら巻いていく。
「なんだこれ。モチじゃないのか」
「モチじゃない。牛のチチ」
「あー、宇宙人がたまに宇宙船に乗せているあの…」
牛は宇宙人が地球という星からキャトってくる代表的な哺乳類である。
「この間、月に停留した宇宙人からマシーンとチチもらった。これからもモチをあげたらチチくれるらしい。コーンもおまけでくれた」
「また勝手にモチを持ち出したのか。あれは女神様と月に住む我々神使の為にこさえているものだぞ。たまにならまだしも、あまり簡単によそ者に与えては…」
「できた!はい、食べて!」
若ウサギは問答無用で叔父ウサギにソフトクリームを手渡す。
モチのように白く、それでいて綺麗に巻かれた不思議な食べ物に叔父ウサギは目を奪われた。
「…ふむ」
叔父ウサギはソフトクリームを少し観察してから、一口食べてみた。
はむっ…
「ん!冷たくて柔らかい…しかも甘い!」
「うまい?」
「うまい!」
「やったー!」
「お前が騒ぐのも少し分かったよ。確かにこれはうまい。でもモチつきはウサギの大切な仕事だぞ?あまりサボるなよ」
「オレはソフトクリーム職人になる」
「一切合切譲らないなお前というやつは…まぁ、気が済むまでやってみなさい」
「うん」
叔父ウサギはソフトクリームを食べ終えると、「ごちそうさま」と言って自分の仕事に戻っていった。
「ねーねー!なにが甘いの?」
ぴょんぴょんと屋台にやって来たのは、好奇心旺盛なおてんばウサギだった。若ウサギと叔父ウサギの会話を聞いていたようだ。
「ソフトクリームだよ。モチより甘い」
「え!モチよりも?」
「うん。作るから待ってて」
若ウサギはまたソフトクリームを作り、おてんばウサギに手渡した。
「わぁ~変な形~」
「食べてみて」
「わかった!」
おてんばウサギはソフトクリームを一口舐めてみた。
ぺろっ…
「ん~~!冷たくて甘~い!すごくおいしい!」
おてんばウサギは目をキラキラさせながらソフトクリームをペロペロと舐め始めた。
「モチよりおいしい?」
「モチよりおいしい~!」
おてんばウサギはソフトクリームをかなり気に入ってくれたようだ。
「みんなにも教えてあげてね。ソフトクリーム、おいしかったって」
「わかった~!」
おてんばウサギはソフトクリームを手に持ってぴょんぴょんと屋台を後にした。
「………」
次にやって来たのは、寡黙なウサギ。
屋台の前でじっとマシーンを見つめている。
ソフトクリームに興味があるようだ。
若ウサギがソフトクリームを作って手渡したが、寡黙なウサギは受け取ったそれをじーっと見つめたままなかなか食べ始めない。
「早く食べないと溶けちゃうよ」
「……ん」
そう言われてようやく一口食べる。
もちょ…
「……うまい」
寡黙なウサギは顔のまわりをソフトクリームだらけにしながらそう言った。
若ウサギがスプーンを渡すと、寡黙なウサギは顔についたソフトクリームを器用に掬って食べた。
ソフトクリーム本体もスプーンを使って食べ進め、コーンにはそのままかじりつき、あっという間に完食した。
「モチとどっちが好き?」
「……どっちも好き」
「よくばりだな…」
「また来る」とだけ言って、寡黙なウサギは去っていった。
「おい、またモチつきをサボっているのか」
苛立った様子でやって来たのは、真面目な働き者ウサギだ。モチをつくことを何よりも重んじており、若ウサギはよくこのウサギに怒られているが反省したことはない。
「オレはソフトクリーム職人になる」
「毎度毎度アホみたいなことを…モチつきウサギはモチをつくんだ。お前はいつも何か妙なことを始めては三日坊主だろう。少しは真面目にモチを…」
「ソフトクリーム、食べてみて」
「話を聞け!大体、俺はモチがあればいい」
「そう言わずに食べてみて。世界が変わるから」
「変わらなくていい…っておい、作り始めるな!俺は食わないぞ!」
若ウサギはお構い無しにソフトクリームを作って、強引に働き者ウサギに手渡す。
食べ物を無駄にしたくない働き者ウサギは渋々食べてみることに。
パクッ…
「……」
「うまい?」
「……ウマイ」
「でしょ!」
「でも、モチの方がウマイ」
「あれま」
ソフトクリームを口にしてもなお、モチ派のウサギもいるようだ。
食べ物をもらってしまった手前これ以上お小言が言えなくなった働き者ウサギは、そのまま自分の持ち場に帰っていった。
「ま~た変なことやってるわねぇアンタ!よくわかんないもんばっか食べてないで、ちゃんとおモチも食べるんだよ!」
屋台に来るやいなや、早口で元気に話しかけてきたのは月一番のおしゃべりウサギである。
「ソフトクリームの方がいい」
「えぇ~?おモチの方がいいわよぉ。ほんのり甘くておいしいんだからぁ」
「ソフトクリームも甘いよ。食べてみて」
若ウサギはソフトクリームを作っておしゃべりウサギに手渡した。
「あらま~、これがそふとくりぃむ?ハイカラねぇ~。せっかくだし頂こうかしら」
おしゃべりウサギはソフトクリームをてっぺんから一口食べてみる。
あむっ…
「ん!?ん~!冷たい!ん~!あらぁ~これおいしいわねぇ~!口の中で溶けちゃうわ!」
「モチとどっちが好き?」
「えぇ~?どっちもおいしいけど…特別感があるのはやっぱりソフトクリームなんじゃないかしら。珍しいし」
「なるほど」
「こんなにおいしいならみんなにも教えてあげないとねぇ!」
「うん。ソフトクリームのこと広めてね」
若ウサギは軽い気持ちでそう言ったが、おしゃべりウサギの影響力は凄まじく、月に住むウサギの大半が屋台に押し寄せる事態となった。
若ウサギは自分と同じソフトクリーム派を月に増やすべく、次から次へと来るお客をなんとか捌いていった。
そうして客足がようやく一区切りついた頃、一人のお客さんがやって来た。
「そふとくりぃむはまだあるかしら」
「ありますよー……!?」
若ウサギは目の前に現れたお客さんに驚き、真っ赤なおめめを見開いた。
お客さんはウサギではなく…
なんと、月の女神様だったのだ。
「では、ひとつ頂ける?」
「は…はいよろこんで…っ!!」
若ウサギは手に全神経を集中し、コーンの上にソフトクリームを丁寧に巻いていく。
「こ、これがソフトクリームです…!牛のチチでできています!どうぞ、お召し上がり下さい…!」
緊張で震える手をなんとか抑え、至高のソフトクリームにスプーンも添えて女神様の神々しい手にお渡しした。
「ありがとう。ふしぎな形ですね」
女神様はソフトクリームを受け取ると、少し眺めてからスプーンでひと口分を掬って食べた。
ちみっ…
「……冷たい」
「お…おいしいですか…?」
「えぇ、とっても甘くて美味しいわ」
「や…やった~~~!!」
若ウサギは自分が大好きになったソフトクリームを、女神様にも美味しいと思ってもらえたことが心の底から嬉しかった。
「モチと一緒に食べたら、もっと美味しそうね」
「え?」
女神様は袖口から金の器を取り出した。
中には小さいモチがいくつか入っている。
「これに、そふとくりぃむを乗せても良いですか?」
「そ、それは構いませんが…」
女神様はモチの入った器にソフトクリームを逆さに入れて、モチとクリームを同時にスプーンで掬って食べた。
「ん~、これは大変美味ですね」
そ、そんなにうまいのか…
ゴクリ…
「あなたもいかが?」
女神様はそう言うと、袖口からもうひとつ、モチの入った金の器を取り出して若ウサギに手渡した。女神様の袖の中は一体どうなっているのだろう。
若ウサギは恐る恐る器を受け取り、モチにソフトクリームを少し巻いて乗せて食べてみた。
ぱくり…
「!!」
ほんのり甘くてもちもちのモチに、甘くて冷たいクリーミーなソフトクリームが合わさって…
「う…うまい!!!」
「ふふふ」
その後、モチ&ソフトクリームは月の定番おやつになった。
若ウサギの好物も、ソフトクリームからモチ&ソフトクリームになった。
モチつきもソフトクリーム作りも、月のウサギみんなでやるようになった。
そう、どちらかだけにこだわる必要なんてなかったのだ。
カレーとラーメン
焼き肉とお寿司
モチとソフトクリーム
どちらの方が優れているかなんてない
おいしいものはおいしいでいい
好みは人それぞれだから
争う必要なんてどこにもないのさ
時には手を取り合って、混ざりあって
新たな''おいしい''に出会えることだってある
だから、どちらかなんて決めなくてよかったんだ
どっちが好きでも
どっちも好きでも構わない
だってどっちも、おいしいのだから――
たけのこよりきのこ
おわり。




