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【第29話】面接(2)

 証明写真を撮った俺たちは、すぐ近くにあった購買で履歴書を買うと、今度は三号棟に向かっていた。用があるのは、その中にあるキャリアセンターだ。ここは就職活動だけでなく、可能な限りアルバイトに関する相談も受けつけると、俺たちは新入生オリエンテーションで聞いている。


 だけれど、一歩足を踏み入れただけで、就職活動に関連した雑誌や書籍が並ぶ空間に、俺は思わず面食らってしまう。天井照明は明るかったが、それでも大学の他の場所よりも、雰囲気は少し真剣さを含んでいる。


 それでも、俺たちは受付に向かっていき、対応してくれた職員に「アルバイトに応募するための履歴書ってどうやって書いたらいいですか?」と素直に訊く。


 すると、その職員は「分かりました。では、一緒にあちらのテーブルに向かいましょう」と言って、受付から出ていた。キャリアセンターの室内には、いくつか書き物ができるような丸いテーブルがあって、俺たちはそのうちの一つに三人で腰を下ろす。


「履歴書はありますか?」と訊かれて、俺たちもすぐ買ったばかりの履歴書を取り出して、テーブルに置いた。


 キャリアセンターの職員の人(名札には「古淵(こぶち)」と書かれていた)は、俺たちに丁寧に履歴書の書き方を教えてくれた。これまでの学歴や取得している資格など基本的な事項の書き方はもちろん、志望動機や自己PRの書き方も、ポイントを絞って分かりやすく教えてくれる。


 それは俺たちにとっても凄く参考になるもので、俺は古淵さんに教えてもらった一時間半の間に履歴書の雛型を完成させられていたし、グエンもどう書けばいいか指針は決まってきたらしい。


 最後に「アルバイトは貴重な社会経験だけれど、学業に支障が出ないようにほどほどにしてくださいね」と軽く釘を刺されたものの、それでも俺は明日の面接に向けて、いくらか前向きな展望も描けるようになっていた。


 そうして翌日の講義を午後の三時に終えた俺たちは一路、応募した映画館へと向かった。モノレールに乗って、この地域でも一番大きいJRの駅を初めて通り過ぎる。


 その間も、俺たちの間にあまり会話は生まれなかった。俺たちは二人とも、初めてのアルバイトの面接にただでさえ緊張していたし、少なくとも俺は履歴書の内容を今一度思い起こしたり、実際の面接をシミュレーションするのに忙しかった。


 アルバイトの面接でよく訊かれる質問は、俺も昨日今日とネットの記事を見ているから、いくつかは把握済みだ。当然、答えだって考えてきている。


 でも、予習した通りに面接が運ぶ保証はどこにもない。


 俺は今からドキドキして、モノレールや中央線の二〇分ほどといった乗車時間が嫌に長く感じた。


 それでも、電車は予定通りに映画館の最寄り駅に辿り着く。初めて降りる駅は、距離的にはそんなに離れていないのに、大学の最寄り駅とはまったく違う雰囲気を帯びているようだ。


 その建物は駅の出口から繋がっていて、俺たちはすぐにいくつかのモニュメントで彩られた入り口広場に出る。平日にも関わらず人が盛んに出入りしていて、活況を呈している様子が感じられる。


 しかし、俺たちが今日用があるのはこのショッピングモールではなくて、近接している映画館だ。


 俺たちは階段を下りて、ショッピングモール沿いに歩く。フットサルコートを通り過ぎると、その建物はすぐに目に入ってきた。


 今住んでいる家からも比較的遠くないシネコンなのに初めて来たから、俺はその大きさに(たとえ新潟のものともサイズ的にはあまり変わらなくても)圧倒されてしまうかのようだ。隣にいるグエンからも息を呑んでいる様子が伝わってくる。


 これからここに入って面接をすると思うと、俺の足は勝手に竦んでしまいそうにもなった。


 それでも、応募した映画館に着いたときには午後の四時を回ったぐらいだったから、午後五時の面接までにはまだ少し時間があった。それは、午後六時に面接を控えているグエンならなおさらだ。


 だから、少し時間を潰すために俺たちは来た道を引き返し、ショッピングモールに足を踏み入れると、手頃なコーヒーチェーンに入った。一番安いドリップコーヒーのショートサイズを二人で注文し、空いていた席に座る。


 平日の夕方でも賑やかな店内で、俺たちは当然落ち着けるはずもない。会話もあまり弾まなくて、お互い何度もスマートフォンにメモしておいた、想定される質問とその答えをチェックしてしまう。


 コーヒーには口をつけているのに、それでも俺は緊張で喉が渇いて仕方がなかった。


 どうにか時間をやり過ごし、時刻が午後四時四〇分を過ぎたところで、俺はテーブルを立った。「じゃあ、行ってくるわ」と言うと、グエンも「うん、頑張って」と応じてくれる。


 そうして、俺はショッピングモールを出て映画館の関係者通用口に回った。あらかじめ伝えられていた島屋さんのメールアドレスに「到着しました」というメールを送る。


 すると、少ししてからカードキーが読み取られる音がして、関係者通用口のドアが開いた。出てきた島屋さんは、年齢で言ったら俺の母親くらいの年に見えて、落ち着いた表情をしていたけれど、それでも俺の心臓はドクンドクンと跳ねて収まることはない。


 バックヤードの廊下を通る際にも、初めて訪れた映画館の裏側に、俺は軽く背中を丸めてさえしまっていた。


 島屋さんが俺を通したのは、机の上にパソコンが二台置かれている事務室だった。今はもう一人の社員? は出払っているようだったが、馴染みのない部屋に二人だけという状況が、さらに俺の緊張を高める。


 そして、俺たちが腰を下ろしたのは、その隣のソファだった。一人掛けのソファが二つ、テーブルを挟むようにして置かれている。


 そうして腰を下ろすと、島屋さんは二言目には「継本友貴さんですね。改めて今日はよろしくお願いします」と言う。「よ、よろしくお願いします」と答えた俺の声は、自分でも分かるほどに上ずっていた。


 面接はまず、俺が差し出した履歴書に記載されている事項を確認することから始まった。昨日のうちに考えた志望動機や自己PRを島屋さんに確認されていると、何度も確かめたことなのに、俺は緊張で胸を張って答えることができない。喉元を押さえられているような感覚すらあって、アルバイトの面接でこれなら、就職活動での面接ではどれだけだろうと思ってしまうほどだ。


 それでも、島屋さんは初めて書いた俺の履歴書を否定したり、苦言を呈すことはしていなかった。あくまでも穏やかに接してくれていて、本心は分からないにしても、俺も極度の不安には苛まれずにいられる。


 島屋さんの前で「映画が好き」と言うのはちょっと恥ずかしかったけれど、それでも嘘ではなかったので、後ろめたさはあまり感じなかった。


 俺が書いた履歴書を確認して、その後にもいくつか質問をしてから、島屋さんはこの映画館での業務内容について説明してくれた。


 映写やチケットの確認といった業務はある程度慣れてきてから行うことで、まずはコンセッションでの接客業務や館内の清掃などといった業務を主に行うことを、俺は聞かされる。それはネットの記事に書かれていたこととも一部は一致していたし、何より業務内容を説明してくれているということは、島屋さんも俺を採用することにいくらか前向きになっているのかもしれないという期待を、俺に抱かせる。


 俺も適度に相槌を打って、了解していることを示す。文字通りの意味で、俺はやれることなら何でもやるつもりだった。


 最後に「継本さんの方から何か質問はありますか?」と訊かれて、「いえ、これまでの面接で知りたいことは全て知られたので、ありません」と答えると、俺の面接は終わった。


 俺としても初めての面接にしてはそつなく答えられた実感があるし、島屋さんも業務内容や給与体系を丁寧に説明してくれていたから、俺は手ごたえを感じながら「ありがとうございました」と言うことができる。


 島屋さんは「合否は三日以内にこちらから連絡させていただきます」と言っていて、俺は返事をしながら良い結果になるように祈る。


 そうして、関係者入り口まで二人で歩いていって、島屋さんがカードキーでドアを開けると、俺たちは最後に今一度「今日はありがとうございました」と挨拶をして別れた。


 外に出てドアが閉まったのを確認した瞬間、俺は腹の底から息を吐く。結果は分からなくても、安堵がどっと押し寄せてくる。


 面接中は切っていたスマートフォンの電源を入れると、時刻は午後の五時半を回ったところで、思っていたよりも時間が経っていなかったことに、俺は自分が抱いていた緊張のほどを再認識した。



(続く)

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