初めての彼女にはなれないけど、、、
***BL*** 本当は穂高の初めての彼女になりたかった。でも、穂高は僕以外の子と付き合ってしまった。ハッピーエンドです。
いつも放課後、教室に迎えに行くのは僕。穂高から僕の所に来る事は無い。僕が行かない限り、僕達が一緒にいる事は無い。
だから、今日も僕は穂高の所に行く。
*****
「及川君、来週の図書委員の交流会の事なんだけど」
「え?」
僕が穂高を迎えに行くと、3組の図書委員の女子が話し掛けて来た。名前、何だっけ?チラリと名札を確認する。武田さん。
「移動は自転車で行くの?バス?」
「あぁ、交通費が支給されるから、バスで行くと良いよ」
「そっか。あ、穂高君?呼ぼうか?」
(名前呼び、、、)
「うん」
「穂高くーん!及川くん来てるよ!」
(声、デカっ!)
穂高が気付いて荷物を持ちながら立つ。
「及川君はバスで行く?」
「うん」
「一緒に行っても良い?」
「え?」
「行った事無いから不安で」
「まぁ、、、良いけど、、、」
「お待たせ。どうした?」
武田さんの表情がパァァァッ!と変わる。きっと穂高が好きなんだな。
僕は、まただ、、、って思う。穂高を好きになる子は、まず僕に近付く。そして、僕に気があるフリをして穂高に近付くんだ。
「図書委員の交流会の事で、及川君に聞きたい事があって」
「そっか」
穂高が教室から出る。武田さんも付いて来る。自然と三人で帰る感じになって、バス停まで歩く。
武田さんはいつの間にか穂高の横を歩き、僕は少し後ろを行く。
バス停で待つ時も武田さんは自然に穂高と話しをしていた。僕は二人の後ろに並んでバスを待つ。
夕方のバスは意外と座れる事が多い。バスが来て、定期を翳して乗り込む。二人はバスの後方に進む。僕は目の前の一人席に座った。この席に座れば、振り返らない限り二人を見る事は無い。二人が並んで座る所なんて見たく無かった。
終点に着いてバスを降りる。
「僕、本屋に寄るからここで」
と言って、さっさと駅ビルに入る。
穂高は何も言わない。
穂高を迎えに行ったのに、一人で帰って来たみたいで、何だか気分が落ち込んだ。
*****
穂高が彼女を作る前まで、僕はいつも
「穂高、穂高!」
と引っ付いて回った。穂高が好き好きで、いつも一緒にいたかったから。
穂高には中学の時に彼女が二人いた。どちらも2週間位で別れている。長続きはしない。
初めて彼女が出来た時、僕はショックで立ち直れなかった。
彼女が出来てからはどうしても一線引いてしまい、少しずつ穂高から離れて行った。穂高と会う事を辞め、穂高とばかり一緒にいた僕は一人になった。
あの時、酷く傷付いて、何もかもがどうでも良くなって、それから僕は穂高と友達以上には近寄れない。
そして、呼び方も穂高から苗字の笙野君に変えた。
半年位たって、少し話せる様になった時、彼女とは2週間で別れたと聞いた。その後も一度、別の子と付き合ったけど、やっぱり2週間位しか持たなかったと言っていた。
穂高は柔らかい印象がある。髪もサラサラで、いつもニコニコしている。誰にでも親切で、いつも周りに人が集まる。
だから、彼女と2週間しか持たなかったと聞いた時は不思議で仕方が無かった。
穂高が言うには、告白されて、好きでも嫌いでも無いから付き合う。でも、ただそれだけで、2週間位すると彼女達の方から別れ話が出るそうだ。
二人とも泣きながら
「穂高君は私を好きじゃ無い。それなのに付き合うなんて辛い」
と言い出す。穂高は、それなら別れようとなるらしい。
優しい穂高にしては珍しい。穂高なら、付き合った彼女を大事にして、何なら初彼女と結婚すると思っていた。僕の勝手なイメージだけど。
でも、初彼女を知っている僕は、あの子と穂高が結婚するとは思えなかった。
*****
駅ビルは広い、たくさんのお店があって、フラフラするのに丁度良い。本屋に行き、電気屋を回り、文房具を見る。洋服屋を見て、靴屋を見て大分時間が経ってから駅に向かう。
さっき、穂高と武田さんが並んでいるのを後ろから見て、僕は中学の頃、穂高が彼女と下校していた後ろ姿を思い出した。
本当は本屋に用事なんて無かったけど、あれ以上一緒にはいたくなかった。
あんまり早く駅に行くと、まだ二人がいるかも知れないから、出来る限り時間を潰した。
そろそろ良いだろうと駅に向かい、改札を通り、ホームに降りるとベンチに穂高がいた。
何で?
僕は気付かないフリをして、いつも1両目に乗るのに、ずっと後ろに移動する。
下り側のホームを歩きたく無くて、上り側寄りのホームを歩く。
電車が入って来て、真ん中位の車両に乗った。
イヤフォンで音楽を聴き、一番端の座席で目を閉じる。、、、この曲、穂高に教えて貰った曲だ。まだ、穂高に彼女が出来る前、いつも一緒にいた頃、何度も聞いた曲。懐かしい曲だった。
誰かが隣に座った。
僕は座り直して、反対側に寄り掛かる。
*****
自宅最寄駅に着いて、電車を降りる。音楽を聴いたまま、人の流れを避けながら最後尾を歩く。
トントンと肩を叩かれた。びっくりした僕は振り向いて相手の顔を見る。
(穂高)
「ずっと横に座ってたのに、気付かないんだ」
イヤフォンをしていてよく聞こえなかった。右耳のイヤフォンを外しながら
「何?」
「本屋で何してたの?」
「ちょっとね」
「2時間も?」
「他にも電気屋見たり、文房具見たり、、、」
「、、、」
「笙野君はこんな時間まで何してたの?」
「、、、」
「武田さんは?」
穂高が何も答えないから、つい聞いてしまった。
「帰ったよ。瑞稀の事色々聞かれた。瑞稀の事好きなんじゃ無い?」
それは無い。きっと、共通の話題として僕を上げただけだ。僕の事を聞けば、自然と穂高の事もわかるから。
「武田と一緒に出掛けるんだって?」
「委員会の用事でね」
僕が歩き出しても、穂高は立ち止まったままだった。
「笙野君?」
穂高は眉を小さく寄せて、機嫌の悪い顔をした。
「武田の事、どう思う?」
「どうもこうも無いよ?さっき名札を見て名前思い出したんだから」
「一緒に行くの?」
「あー、、、。行き方がわからないって言うから」
「連絡先交換した?」
「したよ。委員会が一緒だからね」
「ふぅ〜ん」
何だよ一体、、、。
*****
図書委員会の交流会は、昼ご飯を食べて相手高に移動する。学校は公欠扱いになり、夕方一度帰って来る。
僕は2年生で副委員長だから、相手高の役員に挨拶に行った。3年生の委員長と、1年生と2年生から各1名ずつ副委員長になる。交流会に参加するのは各学年2名ずつ。2年生からは僕と武田さんが参加だった。
相手高、鳩高の委員長は背の高い人だった。雰囲気が穂高に似ている。高校生の1学年の差は大きい。鳩高の委員長はすごく大人に見えた。
**********
瑞稀が「穂高」と俺の名前を呼ぶ声が好きだった。
中学生になり、制服を来た瑞稀が可愛かった。気が付いた時には瑞稀が好きで仕方が無かった。でも、それがどんな好きなのかはわからない。
だから、中学2年の秋、女の子に告白された時、付き合ってみる事にした。女の子と付き合ったら、その子に対する好きと、瑞稀に対する好きの違いがわかるかも知れない、、、そう考えた。
その直後から、瑞稀は元気が無くなった。俺を見る事が無くなり、俺から離れ、俺に近付く事は無かった。
俺の頭の中は瑞稀の事でいっぱいで、彼女の事まで気が回らなかった。どうして、瑞稀が俺を避けるのかわからなかった。
だから、2週間後、彼女に泣きながら辛いと言われた時、あっさり別れてしまった。
彼女と別れれば瑞稀と元に戻れるかと思ったけど、そんな事は無く、瑞稀は相変わらず一人で過ごしていた。
瑞稀は上手く俺を避けた。俺が席を立ち、瑞稀に近寄ろうとすると警戒して逃げた。
瑞稀の事を諦めようと、その頃告白して来た女の子と付き合った。でも、やっぱり上手く行かず、二週間程で別れた。理由は一人目の時と同じ
「穂高君は私を好きじゃ無い。それなのに付き合うなんて辛い」
だった。
漸く、瑞稀と挨拶位出来る様になった時、瑞稀はもう、俺の事を穂高と呼ばなくなった。
**********
あれから武田さんがよく絡んで来るようになった。穂高を迎えに行くと、武田さんがすぐに近寄って来て、穂高を呼ぶ。穂高が来るまで、何かと話し込み、穂高とも親し気に接する。
タイミングが悪い時は、流れで三人で帰る時もある。
正直、仲が良い訳じゃないから武田さんが来る必要は無かった。きっと、同じ委員会の僕と知り合いで、穂高とも友達だってアピールしたいだけなんだ。
穂高と二人で帰っている時
「武田は瑞稀の事、好きだと思う」
と言われた。
僕は小さく笑った。武田さんが好きなのは、穂高なのに、、、。
「何でそう思うの?」
「だって、瑞稀が来るとすぐに迎えに行くから」
それは、その後穂高と喋れるからだよ。そう思いながら
「そんな事ないでしょ」
と言う。
「どうして?」
何で穂高はわからないんだろう。
「武田さんの好きな人は笙野君だよ」
穂高が、僕をジッ見る。
「及川君」
「え?」
穂高が急に苗字で呼んだ。
穂高がフッと笑った。
「他人みたい、、、」
そう、他人みたいなんだ。僕が初めて穂高を、笙野君と苗字で呼んだ時もそう思った。
だからこそ、笙野君と呼び続ける。僕は穂高と友達以上になりたく無い、、、。
「武田が俺を好きなら、付き合ってみようかな」
僕はため息を吐いた。
「笙野君が武田さんの事好きなら、良いと思う」
僕は穂高の顔を見て微笑む。
「ねぇ、瑞稀は俺の事、穂高って呼んでくれないの?」
「、、、穂高、、、遅くなるから帰ろう」
僕は、放課後穂高の教室に行くのを辞めた。
穂高がどんどん武田さんと仲良くなって、武田さんと付き合う所なんて見たく無いからだ。
**********
今日は瑞稀が教室に来ない。
「及川君、休み?」
武田に聞かれたけど、わからない。俺達の時間は放課後瑞稀が迎えに来て、一緒に帰って終わる。朝は別々に登校していた。下校時間しか一緒にいない。
いつも、ホームルームが終わった頃から遅くとも30分位で迎えに来るのに、今日は40分以上経っていた。
瑞稀の教室まで行こうとして、何組か知らない事に気が付いた。2年生になって、3ヶ月も経っていたのに。
俺は武田に瑞稀が何組か聞いた。
「及川君、毎日迎えに来るのに、何組か知らなかったの?」
武田が親し気に笑ったのが、何と無く腹が立った。俺は鞄を持って瑞稀の教室に行く。武田が一緒に着いて来て、何で着いて来るんだろうと思った。
瑞稀は教室に居なかった。残っていた生徒に聞いたら、出席はしていた。職員室とか委員会の用事でもあったのか迷っていたら
「下駄箱に靴があるか見たら、校内にいるかわかるんじゃない?」
と武田が言った。
「そっか」
俺達は瑞稀の下駄箱を探した。
下駄箱の蓋を開けたら上履きが入っていた、瑞稀は帰った後だった、、、。
なんで?
**********
僕は穂高が武田さんと付き合うのかと思ったら、友達でいる事さえ辛くなった。それからずっと頭の中でグルグル考えていた。
でも、僕が穂高の教室に迎えに行かなければ良いだけだ。そうすれば、穂高に会う事は無い。穂高は一度も僕の教室に来た事は無いし、、、このまま、友達も辞めれば良い、、、。
僕は初めて一人で学校を出た。
「初恋は実らない」
どこかで聞いた言葉だった。本当に実らないんだな、、、と思いながらバスを降りる。
「及川君!」
視線を上げて振り向くと、鳩高の図書委員長がいた。名前は
「遠野です。覚えてる?」
「思い出しました」
僕は笑った。
「来年は君が委員長かな?」
遠野さんは人当たりが良い。声も優しいし、一つ年上と言うだけで、何だか頼りになる。
「多分そうなると思います」
「じゃあ、来年の交流会は、確か君の学校が主催だから、頑張ってね」
「え、僕に出来るかな、、、」
「大丈夫、大丈夫。本が好きな人に悪い人はいないから」
「そうかも知れません。今回の交流会も和やかだったし」
僕達は駅中の小さなカフェで、コーヒーを飲んでいた。
入り口の小さい、ガラス張りのお店で、小さい丸テーブルを挟んで木の椅子に座っていた。
他にカウンターの席が、狭い通路を挟んで並んでいた。
遠野さんは、今年の交流会の準備の話しをしてくれた。来年の参考にしようと思って、色々聞いた。
窓の外を穂高と武田さんが通り過ぎるのがチラッと見えた。もう二人は付き合ってるのかな、、、。
でも、僕には関係ないや、、、。
「こんな所で何やってるの?」
え?と思って振り返ると穂高が立っていた。肩口に、裏口が見えた。もう一つの入り口から入って来たみたいだ。
「穂高くん?」
武田さんが声を掛ける。急に穂高が店に入ったから慌てて追い掛けて来たみたいだった。
遠野さんに気付き
「鳩高の、、、」
「遠野です」
遠野さんがにっこり笑った。
一瞬、穂高の目がすわった。
「瑞稀、行くよ」
穂高が僕の腕を掴んで、強引に立たせる。僕はアタフタして、鞄と食器を持って
「ごめんなさい!」
と遠野さんに謝って、穂高を追った。
改札を抜けて、ホームに向かう階段を降りる。
「笙野君!笙野君ってば!」
穂高は早足で階段を降りて行く。僕は追い掛けるのがやっとだった。
「あ!」
ガタガタガタッ!
派手な音を立てて、階段から落ちた。
「瑞稀っ!」
「痛っ、、、たぁ、、、」
足が滑って、数段階段を滑り落ちた。重たいリュックを背負っていたから、頭を打つ事は無かったけど、お尻が物凄く痛い、、、。
「ごめん瑞稀!」
穂高が慌てて戻って来る。
「大丈夫?どこか痛い?」
「お尻、、、」
穂高が重たい荷物を持って、起こしてくれた。泣きそうな顔をしている。
「ごめん」
手を引いて、ベンチまで行く。僕をベンチに座らせると、すぐ横にある自販機の前に立ち
「ミルクティーで良い?」
と聞いた。僕はあまりの痛さに顔が歪んだままだった。
「うん」
穂高は僕にミルクティーと、自分用にコーヒーを買って来た。
「お尻、大丈夫?」
ミルクティーを渡しながら聞いた。
「痛いけど、大丈夫」
右のお尻を摩りながら返事をした。
「ごめん」
また謝った。
僕はミルクティーの蓋を開けて一口飲む。懐かしい味がした。穂高ともっと仲良かった頃、僕はミルクティーばかり飲んでいた。
下りのホームに電車が入って来て、二人で乗る。穂高は僕を一番端に座らせた。
穂高と駐輪場の前で別れ、自転車を出しに行く。僕は痛いお尻を乗せて帰る。
家に帰り、誰もいない部屋の明かりを点ける。重たいリュックを置いて、お風呂を沸かし、お米を研いだ。お米のセットをしておけば、後は母さんが帰ってからおかずを準備してくれる。
お風呂でお尻を見たら内出血をしていた。
ドライヤーを掛けていると、インターフォンが鳴った。宅急便かと思って、画面も確認せずに玄関を開けると穂高だった。
「どうしたの?」
「プリン買って来た」
「?」
「上がっても良い?」
「あ、どうぞ?」
「お邪魔します」
穂高は勝手に僕の部屋に入る。
僕は途中だったドライヤーをもう少し掛けて部屋に戻った。
プリンの入ったビニール袋を机の上に置き、穂高は僕のベッドに腰掛け漫画を読んでいた。
*****
「、、、笙野君」
穂高が上目遣いで睨んで来た。
「その呼び方は嫌い」
僕はため息を吐いた。
「穂高」
穂高の顔付きが変わる。僕の目をしっかりと見て、瞳を潤ませた。
「穂高?」
「瑞稀、、、どうしよう、、、」
「、、、」
「俺、瑞稀の事、好きなんだ」
僕の手を取り、引き寄せた。近付いた僕のお腹にポスっと頭を付けた。
僕は穂高の横に座る。
*****
穂高が俯いて泣いた。涙がポタリ、ポタリと落ちる。こんな穂高は見た事無かった。
*****
「僕、男だけど、、、。僕の事、好きなんて気の所為じゃ無い?穂高、女の子と付き合ってたじゃないか」
「、、、中学生の時、瑞稀の事が好きだった。でも、その好きが何なのか分からなかった。、、、中2の時、告白されて、その子と付き合ったら何か分かるかと思ったけど、何も分からないままだった。ただ、瑞稀が離れて行っただけだった、、、」
穂高の握り締めた拳に、涙がパタパタ落ちた。
「瑞稀は帰って来なかった。俺は瑞稀を諦めようとして、他の子と付き合ったけど、やっぱりダメだった」
穂高が袖口で涙を拭く。
「瑞稀が好きなんだ、、、」
僕は何も言えなかった。ただ、穂高を見るだけだった。
「武田が、瑞稀の話しをする度にイヤな気分になった。俺から瑞稀の事を聞き出して、瑞稀が教室に来ると、俺より先に瑞稀に気付いて近付くんだ。毎日、毎日、毎日、、、」
「穂高、それは武田さんが穂高の事好きだからだよ。僕の事は何とも思って無いから、、、」
「たまに、三人で帰るのはもっとイヤだった。瑞稀と二人の時間を邪魔されてるみたいだった。1日で唯一、瑞稀と一緒にいられる時間なのに、、、」
「そんなに、楽しみにしてたの?」
僕はちょっと苦笑いした。
「穂高は僕のクラスに迎えに来ないのに?」
「、、、だって、瑞稀が来てくれると、俺の事、気にしてくれるんだって嬉しいから、、、」
「、、、僕は、穂高が一度も来てくれなかったから、淋しかったよ」
「ごめん、、、」
穂高が僕の手を握る。
「さっきの人、、、誰?」
「さっきの、、、?あぁ、鳩高の図書委員長。この間の交流会で会ったんだ」
「瑞稀のあんな顔見た事無かった」
あんな顔?
「凄く楽しそうな顔」
「そうだった?」
「昔の、、、穂高って俺の名前を呼んでた頃の顔だった」
まぁ、確かに最近の僕は穂高の前で笑ったりしないけど、、、。
「交流会の話しをしてたんだ。来年は僕達が主催校になるから」
「彼氏かと思った、、、」
「まさか!」
「そーゆう風に見えただけ、、、」
そんな風に見えたんだ。
「遠野さんとは前回と今回で2回しか会ってないよ。あ?でも、去年の交流会にも行ったから3回目かも、、、」
「あの人、余裕があってイヤだ」
「イヤって、穂高、初対面でしょ?」
穂高が僕を抱き締めた。
「ちょっ、、、と、穂高」
「瑞稀に穂高って呼ばれるの嬉しい、、、」
僕は諦めて、穂高の頭をポンポンと撫でた。友達、辞めたかったのに、、、。
、、、えっと、、、穂高が離れないんだけど、、、。
「瑞稀、良い匂いする」
「お風呂上がりだからね」
「何で、俺から離れて行ったの、、、」
「彼女が出来たから」
「彼女が出来ても、離れて行く必要無いと思うけど、、、」
もう、いいかと思った。ずっと隠していたけど、穂高も好きって言ってくれたから、、、。
「イヤだったんだよ」
「、、、何が?」
「穂高に彼女が出来たのが。僕、穂高の事、好きだったから、、、」
穂高が僕を強く抱き締める。
「何で言ってくれなかったの?」
今日の穂高は何だか甘えたがり屋だった。
「言う前に、穂高に彼女が出来た。、、、やっぱり女の子が好きなんだなって思った。だから、穂高から離れた、、、」
ふと、机の上のプリンに目が行く。
「ね、プリン食べたい」
「ん」
穂高がビニール袋に手を伸ばし、プリンをくれた。ちゃんとスプーンも貰って来てある。
二人で蓋を開けて、スプーンで掬って食べる。プリンなんて何年振りかな、、、。
「美味、、、」
空腹に沁みた。プリンを食べながら話しを進める。
「僕は、小学生の頃から穂高が好きだった。でも、穂高は女の子が好きだと思っていたから、気にしなかった。いつも一緒にいたし、それだけで良かった」
穂高がプリンを一口食べる。
「だけど、本当は無理してたんだと思う、、、。穂高が女の子と付き合った時、凄く落ち込んで、苦しくて、何もかもがイヤで、、、この世から消えたかった、、、」
「瑞稀、、、」
「だから、苗字で呼ぶ事にしたんだ。これ以上好きになりたく無かった。前みたいに仲良くなって、また穂高が誰かと付き合ったら、本当に立ち直れないと思ったから、、、」
「ごめん」
穂高はプリンを食べながら泣いた。
僕もプリンを食べて泣いた。
プリンのゴミを台所に持って行き、部屋に戻ると穂高はまた僕に引っ付いて来た。
「武田、、、やっぱり瑞稀の事好きだと思う」
「それは無いって。今までも、武田さんみたいに
穂高目当てで僕に声掛ける子、たくさんいたんだから」
僕は笑った。
穂高が初めて付き合った女の子もそうだった。僕と仲良くなってから、僕と穂高の事を聞きたがる様になって、その内、段々穂高と仲良くなっていく。
武田さんは、あの時の彼女に似ていた。
*****
お互いの気持ちを確認したからと言って、僕達の関係が恋人に進展する事は無かった。
ただ、穂高は武田さんを僕に近付けたく無かったらしく、放課後は穂高が迎えに来る様になった。
「瑞稀!」
教室の入り口で叫ぶ。僕は荷物を持って立ち上がる。
「お待たせ。今日は本屋に行くんだっけ?」
「そ、参考書見たいから」
恋人に進展はしなかったけど、前みたいに沢山話しをする様になった。
たまに、視線を感じて穂高を見るとニコニコしている。僕はこれで良かったと思う。本当は、穂高と恋人同士になりたかったけど、穂高は僕を1番に優先してくれるし、いつも一緒にいられるから、、、。
「あれ?及川君?」
穂高が参考書を探している間、僕は店内をフラフラしていた。
「遠野さん。この間は急に帰ってすみませんでした」
「ああ、びっくりしちゃった。彼?恋人?」
「違いますよ」
クスッと笑う。
「なんか凄く怒ってたみたいだから」
「僕もびっくりしました」
「でも、彼は君の事大好きみたいだね」
「!」
赤面する、、、。
「僕の事、警戒してた。ホントに付き合って無いの?」
「僕達、小学校からの友達なんです。僕は彼以外に仲の良い友達がいなかったから、ちょっと心配したみたいで、、、」
「そうなんだ。もし、及川君に恋人いないならさ」
急な展開ににドキリとした。
「何ですか?」
「僕と付き合わない?」
「え?遠野さん、受験生ですよね?」
高校三年生の夏は勉強も大変だと思うけど、、、
「受験生にも息抜きは必要だよ」
「僕は息抜きですか?」
「及川君の話し方が好きなんだよね。顔も好みだし。ダメなら僕の受験が終わってからでも」
僕は遠野さんを見る。遠野さんが「?」と首を傾げた。
「遠野さん、僕で遊んでますね?」
ふふっと笑った。
「バレたか、だって、君の幼馴染が面白いから」
と言って、指を刺す。
僕が通路を覗くと、すぐ近くに穂高が立っていた。
「人の告白を盗み聞きするのは良く無いよ」
遠野さんが言う。
「穂高、何やってるの?」
「瑞稀探してたら、ソイツと話してるから、、、」
穂高が遠野さんを睨む。
「こらこらこらこら、、、穂高、睨まないの」
「及川君は愛されてるねぇ」
ニヤニヤ笑われた。
「参考書決まったから」
「うん、わかった。それじゃあ、遠野さん。受験頑張って下さいね」
「君達も頑張ってね」
「あの人、瑞稀の事、本当は好きなんじゃ無い?」
「そんな事無いよ」
「だって」
「武田さんと言い、遠野さんと言い、誰でも彼でも疑うなんてどうかしてるよ?」
「瑞稀は可愛いから、、、」
「、、、穂高はカッコ良いよ」
スルッと穂高の指先に触れる。触れただけ。それだけで、僕達はお互い顔が赤くなる。
*****
穂高が家で一緒に勉強をしようと誘って来た。僕はもちろん嬉しかった。
試験中の水曜日。学校の帰りにコンビニでお昼ご飯とおやつと飲み物を買う。
穂高の家に最後に行ったのはいつだろう。
「お邪魔します」
と言って靴を脱ぐ。シンとした家の中。
「誰もいないの?」
「ああ、母さん、俺が中学の時に仕事始めたからね」
そうだったんだ。ちょっと緊張してしまう。
穂高の部屋に荷物を置いて、台所でお弁当を温める。コンビニのお弁当をあんまり食べた事が無い僕は、美味しくてびっくりした。
「たまに食べると美味しいよね」
お腹がいっぱいになり、明日の試験勉強を始めようと問題集を出す。
「瑞稀、、、」
僕が穂高を見ると
「付き合おう」
と言われた。
「えっ、、、と、、、」
「この間、本屋であの人に友達って言ってるの聞いてから、ずっと考えてたんだ」
穂高も問題集を手に取る。
この話しがしたくて家に誘ったのかな、、、。
「これからもこの先もずっと、「友達」って紹介されるんだって思ったら、何だか嫌だった。瑞稀の特別になりたい」
穂高は僕を見ない。恥ずかしいのかも、、、。
僕は穂高が好きで、穂高も僕が好きだ。付き合っても良いんだと思う。
「じゃあ、僕は3番目だね、、、」
ポツリと言ってしまった。
「何が?」
穂高が聞いて来た。
「恋人3号」
ニコッと笑った。
「、、、違う」
穂高は真剣な顔をして
「瑞稀は3番目の恋人じゃなくて、1番最後の恋人。だから、俺を瑞稀の最初で最後の彼氏にして、、、」
僕は穂高のテーブルに置いた手を眺めていた。穂高の指が少し動く、軽く握られていて緊張してるのかと思った。
「僕の初めての彼氏?」
「そう、初めての彼氏」
「、、、僕も穂高の初めての彼女になりたかったな、、、」
どうにもならない事を言っているのはわかっていた。でも、本当はずっと思っていた事。
「、、、ごめん、、、」
「良いんだ。僕だって、告白する勇気が無かったんだし」
ちょっと涙が溢れそうになる。
「俺、試しに付き合うなんてしなければ良かった。もっとちゃんと考えて、自分の気持ちと向き合えば良かった。そうしたら、こんなに遠回りしないで済んだかも、、、」
「穂高、、、」
「3年も掛かっちゃった、、、」
「瑞稀」
穂高が僕の手を握る。
「俺、今初めて恋人と手を繋いだ」
僕はクスッと笑った。穂高は彼女達とは何も無かったって言っていた。ただ、二週間付き合っただけだって。
「僕も、恋人と初めて手を繋いだよ」
穂高は握ったままの僕の手の甲にキスをした。
「初めて、恋人の手にキスをした」
僕はドキッとした。穂高が僕の腰に手を回す。ゆっくり反対側の手が伸びて来る。
「瑞稀、大好き。俺と付き合って」
穂高の指の腹が、僕の唇に触れる。
「瑞稀が初めて告白したいと思った相手で、告白した人だ」
それだけで、嬉しかった。特別な感じがした。
穂高の顔がゆっくり近付いて来て、そっと唇にキスをした。
「初めてのキス」
僕は初めてなのに、うっとりした。唇が離れて行く時、淋しいなと思う程に、、、。
「俺のこれからの初めてを、全部瑞稀に上げる」
僕は穂高の身体にそっと腕を回して抱き締めた。
穂高は僕のシャツに、少し手を入れて指先で素肌を撫でる。耳元で
「もちろん俺の初めての相手も瑞稀だからね」
と囁いた。僕は意味がわかって真っ赤になった。
「だから、瑞稀の初めても、全部俺に頂戴、、、」
「良いよ。全部上げる。ちゃんと受け取ってね」
僕は顔が見えない様に、出来るだけ穂高にくっついてギュッと抱き締めた。
二人がいつまでも仲良く出来ますように!




