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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

初めての彼女にはなれないけど、、、

***BL***  本当は穂高の初めての彼女になりたかった。でも、穂高は僕以外の子と付き合ってしまった。ハッピーエンドです。

 いつも放課後、教室に迎えに行くのは僕。穂高から僕の所に来る事は無い。僕が行かない限り、僕達が一緒にいる事は無い。


 だから、今日も僕は穂高の所に行く。



*****



「及川君、来週の図書委員の交流会の事なんだけど」

「え?」

僕が穂高を迎えに行くと、3組の図書委員の女子が話し掛けて来た。名前、何だっけ?チラリと名札を確認する。武田さん。

「移動は自転車で行くの?バス?」

「あぁ、交通費が支給されるから、バスで行くと良いよ」

「そっか。あ、穂高君?呼ぼうか?」

(名前呼び、、、)

「うん」

「穂高くーん!及川くん来てるよ!」

(声、デカっ!)

穂高が気付いて荷物を持ちながら立つ。

「及川君はバスで行く?」

「うん」

「一緒に行っても良い?」

「え?」

「行った事無いから不安で」

「まぁ、、、良いけど、、、」

「お待たせ。どうした?」

武田さんの表情がパァァァッ!と変わる。きっと穂高が好きなんだな。



 僕は、まただ、、、って思う。穂高を好きになる子は、まず僕に近付く。そして、僕に気があるフリをして穂高に近付くんだ。

「図書委員の交流会の事で、及川君に聞きたい事があって」

「そっか」

穂高が教室から出る。武田さんも付いて来る。自然と三人で帰る感じになって、バス停まで歩く。

 武田さんはいつの間にか穂高の横を歩き、僕は少し後ろを行く。


 バス停で待つ時も武田さんは自然に穂高と話しをしていた。僕は二人の後ろに並んでバスを待つ。

 夕方のバスは意外と座れる事が多い。バスが来て、定期を翳して乗り込む。二人はバスの後方に進む。僕は目の前の一人席に座った。この席に座れば、振り返らない限り二人を見る事は無い。二人が並んで座る所なんて見たく無かった。


 終点に着いてバスを降りる。

「僕、本屋に寄るからここで」

と言って、さっさと駅ビルに入る。

 穂高は何も言わない。


 穂高を迎えに行ったのに、一人で帰って来たみたいで、何だか気分が落ち込んだ。



*****


 穂高が彼女を作る前まで、僕はいつも

「穂高、穂高!」

と引っ付いて回った。穂高が好き好きで、いつも一緒にいたかったから。


 穂高には中学の時に彼女が二人いた。どちらも2週間位で別れている。長続きはしない。

 初めて彼女が出来た時、僕はショックで立ち直れなかった。


 彼女が出来てからはどうしても一線引いてしまい、少しずつ穂高から離れて行った。穂高と会う事を辞め、穂高とばかり一緒にいた僕は一人になった。

 

 あの時、酷く傷付いて、何もかもがどうでも良くなって、それから僕は穂高と友達以上には近寄れない。


 そして、呼び方も穂高から苗字の笙野君に変えた。


 半年位たって、少し話せる様になった時、彼女とは2週間で別れたと聞いた。その後も一度、別の子と付き合ったけど、やっぱり2週間位しか持たなかったと言っていた。


 穂高は柔らかい印象がある。髪もサラサラで、いつもニコニコしている。誰にでも親切で、いつも周りに人が集まる。

 だから、彼女と2週間しか持たなかったと聞いた時は不思議で仕方が無かった。


 穂高が言うには、告白されて、好きでも嫌いでも無いから付き合う。でも、ただそれだけで、2週間位すると彼女達の方から別れ話が出るそうだ。

 二人とも泣きながら

「穂高君は私を好きじゃ無い。それなのに付き合うなんて辛い」

と言い出す。穂高は、それなら別れようとなるらしい。

 優しい穂高にしては珍しい。穂高なら、付き合った彼女を大事にして、何なら初彼女はつかのと結婚すると思っていた。僕の勝手なイメージだけど。

 でも、初彼女はつかのを知っている僕は、あの子と穂高が結婚するとは思えなかった。



*****



 駅ビルは広い、たくさんのお店があって、フラフラするのに丁度良い。本屋に行き、電気屋を回り、文房具を見る。洋服屋を見て、靴屋を見て大分時間が経ってから駅に向かう。

 さっき、穂高と武田さんが並んでいるのを後ろから見て、僕は中学の頃、穂高が彼女と下校していた後ろ姿を思い出した。

 本当は本屋に用事なんて無かったけど、あれ以上一緒にはいたくなかった。

 あんまり早く駅に行くと、まだ二人がいるかも知れないから、出来る限り時間を潰した。



 そろそろ良いだろうと駅に向かい、改札を通り、ホームに降りるとベンチに穂高がいた。

 何で?

 僕は気付かないフリをして、いつも1両目に乗るのに、ずっと後ろに移動する。

下り側のホームを歩きたく無くて、上り側寄りのホームを歩く。


 電車が入って来て、真ん中位の車両に乗った。


 イヤフォンで音楽を聴き、一番端の座席で目を閉じる。、、、この曲、穂高に教えて貰った曲だ。まだ、穂高に彼女が出来る前、いつも一緒にいた頃、何度も聞いた曲。懐かしい曲だった。


 誰かが隣に座った。


 僕は座り直して、反対側に寄り掛かる。



*****



 自宅最寄駅に着いて、電車を降りる。音楽を聴いたまま、人の流れを避けながら最後尾を歩く。


 トントンと肩を叩かれた。びっくりした僕は振り向いて相手の顔を見る。 

(穂高)

「ずっと横に座ってたのに、気付かないんだ」

イヤフォンをしていてよく聞こえなかった。右耳のイヤフォンを外しながら

「何?」

「本屋で何してたの?」

「ちょっとね」

「2時間も?」

「他にも電気屋見たり、文房具見たり、、、」

「、、、」

「笙野君はこんな時間まで何してたの?」

「、、、」

「武田さんは?」

穂高が何も答えないから、つい聞いてしまった。

「帰ったよ。瑞稀の事色々聞かれた。瑞稀の事好きなんじゃ無い?」

それは無い。きっと、共通の話題として僕を上げただけだ。僕の事を聞けば、自然と穂高の事もわかるから。

「武田と一緒に出掛けるんだって?」

「委員会の用事でね」

僕が歩き出しても、穂高は立ち止まったままだった。

「笙野君?」

穂高は眉を小さく寄せて、機嫌の悪い顔をした。

「武田の事、どう思う?」

「どうもこうも無いよ?さっき名札を見て名前思い出したんだから」

「一緒に行くの?」

「あー、、、。行き方がわからないって言うから」

「連絡先交換した?」

「したよ。委員会が一緒だからね」

「ふぅ〜ん」

何だよ一体、、、。



*****



  図書委員会の交流会は、昼ご飯を食べて相手高に移動する。学校は公欠扱いになり、夕方一度帰って来る。

 僕は2年生で副委員長だから、相手高の役員に挨拶に行った。3年生の委員長と、1年生と2年生から各1名ずつ副委員長になる。交流会に参加するのは各学年2名ずつ。2年生からは僕と武田さんが参加だった。

 相手高、鳩高の委員長は背の高い人だった。雰囲気が穂高に似ている。高校生の1学年の差は大きい。鳩高の委員長はすごく大人に見えた。



**********



 瑞稀が「穂高」と俺の名前を呼ぶ声が好きだった。



 中学生になり、制服を来た瑞稀が可愛かった。気が付いた時には瑞稀が好きで仕方が無かった。でも、それがどんな好きなのかはわからない。

 だから、中学2年の秋、女の子に告白された時、付き合ってみる事にした。女の子と付き合ったら、その子に対する好きと、瑞稀に対する好きの違いがわかるかも知れない、、、そう考えた。

 その直後から、瑞稀は元気が無くなった。俺を見る事が無くなり、俺から離れ、俺に近付く事は無かった。

 俺の頭の中は瑞稀の事でいっぱいで、彼女の事まで気が回らなかった。どうして、瑞稀が俺を避けるのかわからなかった。

 だから、2週間後、彼女に泣きながら辛いと言われた時、あっさり別れてしまった。

 彼女と別れれば瑞稀と元に戻れるかと思ったけど、そんな事は無く、瑞稀は相変わらず一人で過ごしていた。

 瑞稀は上手く俺を避けた。俺が席を立ち、瑞稀に近寄ろうとすると警戒して逃げた。


 瑞稀の事を諦めようと、その頃告白して来た女の子と付き合った。でも、やっぱり上手く行かず、二週間程で別れた。理由は一人目の時と同じ


「穂高君は私を好きじゃ無い。それなのに付き合うなんて辛い」


だった。


 漸く、瑞稀と挨拶位出来る様になった時、瑞稀はもう、俺の事を穂高と呼ばなくなった。



**********



 あれから武田さんがよく絡んで来るようになった。穂高を迎えに行くと、武田さんがすぐに近寄って来て、穂高を呼ぶ。穂高が来るまで、何かと話し込み、穂高とも親し気に接する。

 タイミングが悪い時は、流れで三人で帰る時もある。

 正直、仲が良い訳じゃないから武田さんが来る必要は無かった。きっと、同じ委員会の僕と知り合いで、穂高とも友達だってアピールしたいだけなんだ。


 穂高と二人で帰っている時

「武田は瑞稀の事、好きだと思う」

と言われた。

 僕は小さく笑った。武田さんが好きなのは、穂高なのに、、、。

「何でそう思うの?」

「だって、瑞稀が来るとすぐに迎えに行くから」

それは、その後穂高と喋れるからだよ。そう思いながら

「そんな事ないでしょ」

と言う。

「どうして?」

何で穂高はわからないんだろう。

「武田さんの好きな人は笙野君だよ」

穂高が、僕をジッ見る。



「及川君」  



「え?」

穂高が急に苗字で呼んだ。

 穂高がフッと笑った。

「他人みたい、、、」

そう、他人みたいなんだ。僕が初めて穂高を、笙野君と苗字で呼んだ時もそう思った。

 

 だからこそ、笙野君と呼び続ける。僕は穂高と友達以上になりたく無い、、、。



「武田が俺を好きなら、付き合ってみようかな」

僕はため息をいた。

「笙野君が武田さんの事好きなら、良いと思う」

僕は穂高の顔を見て微笑む。



「ねぇ、瑞稀は俺の事、穂高って呼んでくれないの?」

「、、、穂高、、、遅くなるから帰ろう」



 僕は、放課後穂高の教室に行くのを辞めた。

 穂高がどんどん武田さんと仲良くなって、武田さんと付き合う所なんて見たく無いからだ。



**********



 今日は瑞稀が教室に来ない。

「及川君、休み?」

武田に聞かれたけど、わからない。俺達の時間は放課後瑞稀が迎えに来て、一緒に帰って終わる。朝は別々に登校していた。下校時間しか一緒にいない。

 いつも、ホームルームが終わった頃から遅くとも30分位で迎えに来るのに、今日は40分以上経っていた。

 瑞稀の教室まで行こうとして、何組か知らない事に気が付いた。2年生になって、3ヶ月も経っていたのに。

 俺は武田に瑞稀が何組か聞いた。

「及川君、毎日迎えに来るのに、何組か知らなかったの?」

武田が親し気に笑ったのが、何と無く腹が立った。俺は鞄を持って瑞稀の教室に行く。武田が一緒に着いて来て、何で着いて来るんだろうと思った。

 瑞稀は教室に居なかった。残っていた生徒に聞いたら、出席はしていた。職員室とか委員会の用事でもあったのか迷っていたら

「下駄箱に靴があるか見たら、校内にいるかわかるんじゃない?」

と武田が言った。

「そっか」

俺達は瑞稀の下駄箱を探した。

 下駄箱の蓋を開けたら上履きが入っていた、瑞稀は帰った後だった、、、。



なんで?




**********



 僕は穂高が武田さんと付き合うのかと思ったら、友達でいる事さえ辛くなった。それからずっと頭の中でグルグル考えていた。

 でも、僕が穂高の教室に迎えに行かなければ良いだけだ。そうすれば、穂高に会う事は無い。穂高は一度も僕の教室に来た事は無いし、、、このまま、友達も辞めれば良い、、、。

 僕は初めて一人で学校を出た。


「初恋は実らない」


 どこかで聞いた言葉だった。本当に実らないんだな、、、と思いながらバスを降りる。

「及川君!」

視線を上げて振り向くと、鳩高の図書委員長がいた。名前は

「遠野です。覚えてる?」

「思い出しました」

僕は笑った。


「来年は君が委員長かな?」

遠野さんは人当たりが良い。声も優しいし、一つ年上と言うだけで、何だか頼りになる。

「多分そうなると思います」

「じゃあ、来年の交流会は、確か君の学校が主催だから、頑張ってね」

「え、僕に出来るかな、、、」

「大丈夫、大丈夫。本が好きな人に悪い人はいないから」

「そうかも知れません。今回の交流会も和やかだったし」

僕達は駅中の小さなカフェで、コーヒーを飲んでいた。

 入り口の小さい、ガラス張りのお店で、小さい丸テーブルを挟んで木の椅子に座っていた。

 他にカウンターの席が、狭い通路を挟んで並んでいた。

 遠野さんは、今年の交流会の準備の話しをしてくれた。来年の参考にしようと思って、色々聞いた。


 窓の外を穂高と武田さんが通り過ぎるのがチラッと見えた。もう二人は付き合ってるのかな、、、。

 でも、僕には関係ないや、、、。



「こんな所で何やってるの?」

え?と思って振り返ると穂高が立っていた。肩口に、裏口が見えた。もう一つの入り口から入って来たみたいだ。

「穂高くん?」

武田さんが声を掛ける。急に穂高が店に入ったから慌てて追い掛けて来たみたいだった。

 遠野さんに気付き

「鳩高の、、、」

「遠野です」 

遠野さんがにっこり笑った。

 一瞬、穂高の目がすわった。

「瑞稀、行くよ」

穂高が僕の腕を掴んで、強引に立たせる。僕はアタフタして、鞄と食器を持って

「ごめんなさい!」  

と遠野さんに謝って、穂高を追った。



改札を抜けて、ホームに向かう階段を降りる。

「笙野君!笙野君ってば!」

穂高は早足で階段を降りて行く。僕は追い掛けるのがやっとだった。

「あ!」

ガタガタガタッ!

派手な音を立てて、階段から落ちた。

「瑞稀っ!」

「痛っ、、、たぁ、、、」

足が滑って、数段階段を滑り落ちた。重たいリュックを背負しょっていたから、頭を打つ事は無かったけど、お尻が物凄く痛い、、、。

「ごめん瑞稀!」

穂高が慌てて戻って来る。

「大丈夫?どこか痛い?」

「お尻、、、」

穂高が重たい荷物を持って、起こしてくれた。泣きそうな顔をしている。

「ごめん」

手を引いて、ベンチまで行く。僕をベンチに座らせると、すぐ横にある自販機の前に立ち

「ミルクティーで良い?」

と聞いた。僕はあまりの痛さに顔が歪んだままだった。

「うん」

穂高は僕にミルクティーと、自分用にコーヒーを買って来た。

「お尻、大丈夫?」

ミルクティーを渡しながら聞いた。

「痛いけど、大丈夫」

右のお尻を摩りながら返事をした。

「ごめん」

また謝った。

僕はミルクティーの蓋を開けて一口飲む。懐かしい味がした。穂高ともっと仲良かった頃、僕はミルクティーばかり飲んでいた。


 下りのホームに電車が入って来て、二人で乗る。穂高は僕を一番端に座らせた。


 穂高と駐輪場の前で別れ、自転車を出しに行く。僕は痛いお尻を乗せて帰る。



 家に帰り、誰もいない部屋の明かりを点ける。重たいリュックを置いて、お風呂を沸かし、お米を研いだ。お米のセットをしておけば、後は母さんが帰ってからおかずを準備してくれる。

 お風呂でお尻を見たら内出血をしていた。


 ドライヤーを掛けていると、インターフォンが鳴った。宅急便かと思って、画面も確認せずに玄関を開けると穂高だった。

「どうしたの?」

「プリン買って来た」

「?」

「上がっても良い?」

「あ、どうぞ?」

「お邪魔します」

穂高は勝手に僕の部屋に入る。

 僕は途中だったドライヤーをもう少し掛けて部屋に戻った。

 プリンの入ったビニール袋を机の上に置き、穂高は僕のベッドに腰掛け漫画を読んでいた。


 

*****



「、、、笙野君」



穂高が上目遣いで睨んで来た。

「その呼び方は嫌い」

僕はため息をいた。

「穂高」

穂高の顔付きが変わる。僕の目をしっかりと見て、瞳を潤ませた。

「穂高?」

「瑞稀、、、どうしよう、、、」

「、、、」

「俺、瑞稀の事、好きなんだ」

僕の手を取り、引き寄せた。近付いた僕のお腹にポスっと頭を付けた。


 僕は穂高の横に座る。



*****



 穂高が俯いて泣いた。涙がポタリ、ポタリと落ちる。こんな穂高は見た事無かった。



*****



「僕、男だけど、、、。僕の事、好きなんて気の所為じゃ無い?穂高、女の子と付き合ってたじゃないか」

「、、、中学生の時、瑞稀の事が好きだった。でも、その好きが何なのか分からなかった。、、、中2の時、告白されて、その子と付き合ったら何か分かるかと思ったけど、何も分からないままだった。ただ、瑞稀が離れて行っただけだった、、、」

穂高の握り締めた拳に、涙がパタパタ落ちた。

「瑞稀は帰って来なかった。俺は瑞稀を諦めようとして、他の子と付き合ったけど、やっぱりダメだった」

穂高が袖口で涙を拭く。

「瑞稀が好きなんだ、、、」

僕は何も言えなかった。ただ、穂高を見るだけだった。

「武田が、瑞稀の話しをする度にイヤな気分になった。俺から瑞稀の事を聞き出して、瑞稀が教室に来ると、俺より先に瑞稀に気付いて近付くんだ。毎日、毎日、毎日、、、」

「穂高、それは武田さんが穂高の事好きだからだよ。僕の事は何とも思って無いから、、、」

「たまに、三人で帰るのはもっとイヤだった。瑞稀と二人の時間を邪魔されてるみたいだった。1日で唯一、瑞稀と一緒にいられる時間なのに、、、」

「そんなに、楽しみにしてたの?」

僕はちょっと苦笑いした。

「穂高は僕のクラスに迎えに来ないのに?」

「、、、だって、瑞稀が来てくれると、俺の事、気にしてくれるんだって嬉しいから、、、」

「、、、僕は、穂高が一度も来てくれなかったから、淋しかったよ」

「ごめん、、、」

穂高が僕の手を握る。

「さっきの人、、、誰?」

「さっきの、、、?あぁ、鳩高の図書委員長。この間の交流会で会ったんだ」

「瑞稀のあんな顔見た事無かった」

あんな顔?

「凄く楽しそうな顔」

「そうだった?」

「昔の、、、穂高って俺の名前を呼んでた頃の顔だった」

まぁ、確かに最近の僕は穂高の前で笑ったりしないけど、、、。

「交流会の話しをしてたんだ。来年は僕達が主催校になるから」

「彼氏かと思った、、、」

「まさか!」

「そーゆう風に見えただけ、、、」

そんな風に見えたんだ。

「遠野さんとは前回と今回で2回しか会ってないよ。あ?でも、去年の交流会にも行ったから3回目かも、、、」

「あの人、余裕があってイヤだ」 

「イヤって、穂高、初対面でしょ?」

穂高が僕を抱き締めた。

「ちょっ、、、と、穂高」

「瑞稀に穂高って呼ばれるの嬉しい、、、」

僕は諦めて、穂高の頭をポンポンと撫でた。友達、辞めたかったのに、、、。




、、、えっと、、、穂高が離れないんだけど、、、。


「瑞稀、良い匂いする」

「お風呂上がりだからね」

「何で、俺から離れて行ったの、、、」

「彼女が出来たから」

「彼女が出来ても、離れて行く必要無いと思うけど、、、」

もう、いいかと思った。ずっと隠していたけど、穂高も好きって言ってくれたから、、、。

「イヤだったんだよ」

「、、、何が?」

「穂高に彼女が出来たのが。僕、穂高の事、好きだったから、、、」

穂高が僕を強く抱き締める。

「何で言ってくれなかったの?」

今日の穂高は何だか甘えたがり屋だった。

「言う前に、穂高に彼女が出来た。、、、やっぱり女の子が好きなんだなって思った。だから、穂高から離れた、、、」

ふと、机の上のプリンに目が行く。

「ね、プリン食べたい」

「ん」

穂高がビニール袋に手を伸ばし、プリンをくれた。ちゃんとスプーンも貰って来てある。

 二人で蓋を開けて、スプーンで掬って食べる。プリンなんて何年振りかな、、、。

美味うま、、、」

空腹に沁みた。プリンを食べながら話しを進める。

「僕は、小学生の頃から穂高が好きだった。でも、穂高は女の子が好きだと思っていたから、気にしなかった。いつも一緒にいたし、それだけで良かった」

穂高がプリンを一口食べる。

「だけど、本当は無理してたんだと思う、、、。穂高が女の子と付き合った時、凄く落ち込んで、苦しくて、何もかもがイヤで、、、この世から消えたかった、、、」

「瑞稀、、、」

「だから、苗字で呼ぶ事にしたんだ。これ以上好きになりたく無かった。前みたいに仲良くなって、また穂高が誰かと付き合ったら、本当に立ち直れないと思ったから、、、」

「ごめん」

穂高はプリンを食べながら泣いた。


僕もプリンを食べて泣いた。


 プリンのゴミを台所に持って行き、部屋に戻ると穂高はまた僕に引っ付いて来た。

「武田、、、やっぱり瑞稀の事好きだと思う」

「それは無いって。今までも、武田さんみたいに

穂高目当てで僕に声掛ける子、たくさんいたんだから」

僕は笑った。

 穂高が初めて付き合った女の子もそうだった。僕と仲良くなってから、僕と穂高の事を聞きたがる様になって、その内、段々穂高と仲良くなっていく。

 武田さんは、あの時の彼女に似ていた。



*****



 お互いの気持ちを確認したからと言って、僕達の関係が恋人に進展する事は無かった。

 ただ、穂高は武田さんを僕に近付けたく無かったらしく、放課後は穂高が迎えに来る様になった。

「瑞稀!」

教室の入り口で叫ぶ。僕は荷物を持って立ち上がる。

「お待たせ。今日は本屋に行くんだっけ?」

「そ、参考書見たいから」

恋人に進展はしなかったけど、前みたいに沢山話しをする様になった。

 たまに、視線を感じて穂高を見るとニコニコしている。僕はこれで良かったと思う。本当は、穂高と恋人同士になりたかったけど、穂高は僕を1番に優先してくれるし、いつも一緒にいられるから、、、。



「あれ?及川君?」

穂高が参考書を探している間、僕は店内をフラフラしていた。

「遠野さん。この間は急に帰ってすみませんでした」

「ああ、びっくりしちゃった。彼?恋人?」

「違いますよ」

クスッと笑う。

「なんか凄く怒ってたみたいだから」

「僕もびっくりしました」

「でも、彼は君の事大好きみたいだね」

「!」

赤面する、、、。

「僕の事、警戒してた。ホントに付き合って無いの?」

「僕達、小学校からの友達なんです。僕は彼以外に仲の良い友達がいなかったから、ちょっと心配したみたいで、、、」

「そうなんだ。もし、及川君に恋人いないならさ」

急な展開ににドキリとした。

「何ですか?」

「僕と付き合わない?」

「え?遠野さん、受験生ですよね?」

高校三年生の夏は勉強も大変だと思うけど、、、

「受験生にも息抜きは必要だよ」

「僕は息抜きですか?」

「及川君の話し方が好きなんだよね。顔も好みだし。ダメなら僕の受験が終わってからでも」

僕は遠野さんを見る。遠野さんが「?」と首を傾げた。

「遠野さん、僕で遊んでますね?」

ふふっと笑った。

「バレたか、だって、君の幼馴染が面白いから」

と言って、指を刺す。

僕が通路を覗くと、すぐ近くに穂高が立っていた。

「人の告白を盗み聞きするのは良く無いよ」

遠野さんが言う。

「穂高、何やってるの?」

「瑞稀探してたら、ソイツと話してるから、、、」

穂高が遠野さんを睨む。

「こらこらこらこら、、、穂高、睨まないの」

「及川君は愛されてるねぇ」

ニヤニヤ笑われた。

「参考書決まったから」

「うん、わかった。それじゃあ、遠野さん。受験頑張って下さいね」

「君達も頑張ってね」



「あの人、瑞稀の事、本当は好きなんじゃ無い?」

「そんな事無いよ」

「だって」

「武田さんと言い、遠野さんと言い、誰でも彼でも疑うなんてどうかしてるよ?」

「瑞稀は可愛いから、、、」

「、、、穂高はカッコ良いよ」

スルッと穂高の指先に触れる。触れただけ。それだけで、僕達はお互い顔が赤くなる。



*****



 穂高が家で一緒に勉強をしようと誘って来た。僕はもちろん嬉しかった。

 試験中の水曜日。学校の帰りにコンビニでお昼ご飯とおやつと飲み物を買う。

 穂高の家に最後に行ったのはいつだろう。


「お邪魔します」

と言って靴を脱ぐ。シンとした家の中。

「誰もいないの?」

「ああ、母さん、俺が中学の時に仕事始めたからね」

そうだったんだ。ちょっと緊張してしまう。


 穂高の部屋に荷物を置いて、台所でお弁当を温める。コンビニのお弁当をあんまり食べた事が無い僕は、美味しくてびっくりした。

「たまに食べると美味しいよね」

お腹がいっぱいになり、明日の試験勉強を始めようと問題集を出す。

「瑞稀、、、」

僕が穂高を見ると

「付き合おう」

と言われた。

「えっ、、、と、、、」

「この間、本屋であの人に友達って言ってるの聞いてから、ずっと考えてたんだ」

穂高も問題集を手に取る。

 この話しがしたくて家に誘ったのかな、、、。

「これからもこの先もずっと、「友達」って紹介されるんだって思ったら、何だか嫌だった。瑞稀の特別になりたい」

穂高は僕を見ない。恥ずかしいのかも、、、。

 僕は穂高が好きで、穂高も僕が好きだ。付き合っても良いんだと思う。


「じゃあ、僕は3番目だね、、、」

ポツリと言ってしまった。

「何が?」

穂高が聞いて来た。

「恋人3号」

ニコッと笑った。

「、、、違う」

穂高は真剣な顔をして

「瑞稀は3番目の恋人じゃなくて、1番最後の恋人。だから、俺を瑞稀の最初で最後の彼氏にして、、、」

 僕は穂高のテーブルに置いた手を眺めていた。穂高の指が少し動く、軽く握られていて緊張してるのかと思った。

「僕の初めての彼氏?」

「そう、初めての彼氏」

「、、、僕も穂高の初めての彼女になりたかったな、、、」

どうにもならない事を言っているのはわかっていた。でも、本当はずっと思っていた事。

「、、、ごめん、、、」

「良いんだ。僕だって、告白する勇気が無かったんだし」

ちょっと涙が溢れそうになる。

「俺、試しに付き合うなんてしなければ良かった。もっとちゃんと考えて、自分の気持ちと向き合えば良かった。そうしたら、こんなに遠回りしないで済んだかも、、、」

「穂高、、、」

「3年も掛かっちゃった、、、」


「瑞稀」

穂高が僕の手を握る。

「俺、今初めて恋人と手を繋いだ」

僕はクスッと笑った。穂高は彼女達とは何も無かったって言っていた。ただ、二週間付き合っただけだって。

「僕も、恋人と初めて手を繋いだよ」

穂高は握ったままの僕の手の甲にキスをした。

「初めて、恋人の手にキスをした」

僕はドキッとした。穂高が僕の腰に手を回す。ゆっくり反対側の手が伸びて来る。

「瑞稀、大好き。俺と付き合って」

穂高の指の腹が、僕の唇に触れる。

「瑞稀が初めて告白したいと思った相手で、告白した人だ」

それだけで、嬉しかった。特別な感じがした。

穂高の顔がゆっくり近付いて来て、そっと唇にキスをした。

「初めてのキス」

僕は初めてなのに、うっとりした。唇が離れて行く時、淋しいなと思う程に、、、。

「俺のこれからの初めてを、全部瑞稀に上げる」

僕は穂高の身体にそっと腕を回して抱き締めた。

 穂高は僕のシャツに、少し手を入れて指先で素肌を撫でる。耳元で

「もちろん俺の初めての相手も瑞稀だからね」

と囁いた。僕は意味がわかって真っ赤になった。

「だから、瑞稀の初めても、全部俺に頂戴、、、」

「良いよ。全部上げる。ちゃんと受け取ってね」


 僕は顔が見えない様に、出来るだけ穂高にくっついてギュッと抱き締めた。




二人がいつまでも仲良く出来ますように!

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