僕と獣2
あれから数日が経った。
義足を付けたおじさんのリハビリと療養の為に、弟さんの家に泊まらせてもらっていた。
自分の家族の仇をとれたおじさんの顔は、どことなく柔らかくなった気がする。
「それじゃあ少し散歩してくる」
「僕も一緒に行きます」
義足に慣れる為に日がな一日散歩に行く、そんな平和な日が続いていた。
「いってらっしゃい、外には出ないでよ」
「いってらっしゃーい」
弟さん達に見送られ外に出る、最初の頃に比べたらおじさんの足取りも軽く見える。
「今日も街を一周するぞ」
笑顔のおじさんの隣を歩きながら僕はあの獣の事を考えていた。
街の中に獣が来ることはないみたいだが、おじさんが森に入ったらまた襲ってくる可能性がある、なんなら僕が入ってもくるのかな?
これを解決できない限り家には帰れない、おじさんにこの事を話すとまた無茶しそうだし、どうするか…。
毎日考えてみても解決策は思いつかない。
「ところでちびすけ、1つ話しいいか?」
おじさんは立ち止まりコチラを見つめてくる。
「どうしたんですか?」
いつもと違い何か照れくさそうにしている。
「まぁ…なんだ…もしよかったらでいいんだが…な、俺と…な?」
…?
何か言いたいみたいだけど、どうしたんだろう?
「…すまんなんでもない」
おじさんは足早に歩き始めて行った。
「ちょっと、待ってくださいよ」
それを走って追いかける、早足で歩くおじさんの顔は少し赤くなっていた気がした。
2
草木も眠る頃尿意に目を覚まし、おじさんのいびきを背にトイレに向かっていた。
眠っている時は気にしないけど、相変わらず凄いいびきだな、最初の頃はビックリしたけど、なれというのは凄い。
用を足し、喉も乾いたので水を飲みに台所に向かう。
暗い部屋の中を月明かりを頼りに水の入ったポットを探すが、どれかよくわからない。
「お水だったらコレだよ」
突然の声に驚き悲鳴をあげそうになるがグッと堪えた、いつの間にか娘さんが僕の後ろに立っていた。
「ありがとう」
ポットとコップを受け取り、お水をいただく。
「こんな時間に会うなんて珍しいね」
「そうだね、いつもこの時間起きてるの?」
飲み終わったコップを置き、2人で向かい合うように椅子に座る。
「ううん、私も喉が渇いて起きてきただけ」
「そっか、じゃあ一緒だね」
2人で笑いあい。
「なんか目が冴えたし、少し外に出ない?」
「いいよ」
娘さんに手を引かれて外に出る。
暗い街並みの中を2人で手を繋ぎ歩いていく、行き先は特に決めてない、ただふらふらと気ままに歩く。
「そういえば君はおじさんが治った後はどうするの?、また森の中のお家に帰るの?」
ずっと考えてはいた、今の生活は楽しい、あの獣もそうだけど外は怖いもので溢れている。
このまま皆んなといるのもいいんじゃないかと、でも。
「もう少しおじさんが良くなったら旅に出ようと思ってるよ」
元々僕はこの世界に破滅をもたらすものを探しにきたんだ、居心地が良くても止まっていてはいけない。
「そっか…残念、私もおじさんも寂しくて泣いちゃうかも」
僕は心の中で出てこいと考え、手元に本を召喚し。
「よかったらコレを貰ってくれないかな?」
本から取り出したコインを1枚渡す。
「凄い綺麗なコインだね、コレはなんなの?」
「僕たちの友達の証みたいな物だよ」
娘さんは嬉しそうに受け取り。
「ありがとう、大事にするね」
ポケットにしまった。
「ところで、その本はなん」
娘さんが何かを言おうとした時、それを遮るように獣の声が聞こえてきた。
直感だが、あの獣の気がする。
「街には入ってこないと思うけど、怖いから帰ろうか」
娘さんに手を引かれ急ぎ足で家に向かうが。
月の光に当てられた獣が僕たちの目の前に立っていた。
3
「嘘でしょ、なんで街の中に入ってきてるの」
怖がる娘さんの前に立ち、獣を見つめる、やはりあの獣で間違いない。
獣の視線は完全に僕を睨んでいる。
「聞いて、僕が引きつけるから誰か助けを呼んできて」
「でも危ないよ」
「大丈夫だから早く行って」
娘さんは何処かに走っていく、案の定獣は娘さんの方には目もくれず僕を睨んでいる。
娘さんを逃すことはできたけど、ここからどうしようか?
寝巻きで出てきたから何も持っていない、襲われたら一瞬でやられてしまう。
…だがちょっと待て、僕を殺すつもりならもう手を出してるはずだ、なのに手を出してこないのは何故だ?
「…僕の言葉がわかりますか?」
「あぁ、わかるぞ」
獣は静かに応える。
「少し話がしたくてな、来てもらうぞ」
一瞬でわからなかったが、僕は宙に投げられたと思ったら獣の背中にいた。
「捕まってろ」
そのまま街の外まで跳躍する、僕からしたら何が何だかわからないうちに外にいた。
獣の毛は見た目以上に柔らかく、可能ならばこのままここにいたいが。
「もう降りろ」
残念ながら降り、再び向かい合う。
「それで、僕に何のようですか?」
街の外では助けも来るまでに時間がかかる、逃げ道もないが不思議と僕は落ち着いていた。
獣は確かに僕を睨んでいるが敵意を感じない、何を僕に話したいんだ?
「何故あの時お前は俺に立ち向かってきたんだ?」
あの時…僕が薬を投げつけた時のことか。
「おじさんに死んでほしくなかったからに決まってるじゃないか」
「そうか、そんな理由か」
それ以上の理由はないと思うが、何か納得したみたいだ。
「俺の親はある時から凶暴になった、俺の他の兄妹も襲われ殺された、身内も関係なく襲ってきたくらいだからお前たちにも何かしたのだろう」
「だがそれでも親だからな、殺されたのなら仇をとろうと襲ったが、お前の存在に気が変わったんだ」
「…?僕がですか?」
「あぁ、ここでおじさんというのを殺すと次はお前が俺を殺しに来るだろう、あの時キツい匂いのする物を投げられて思った、だからもう襲わないってことを伝えたかった」
その言葉に嘘はなさそうだ、だが何か腑に落ちない。
「僕が言うのも変なんだけど、それでいいの?」
「もちろんだ、殺し殺されを続けるのは不毛なことだ、だが1つ頼みがある」
「何ですか?」
「親の死骸をどうしたか教えてほしい」
4
…朝だ、あれから大変だった。
街の人達が僕のことを助けに来てくれ、獣を攻撃しようとするのを止め、今までの会話を伝えたりして大変だった。
街の人達は半信半疑だったけど、僕に危害はなかったので一旦は納得してくれた。
親獣の死骸の行方はおじさんしか知らないので、分かり次第教えることを約束し、再び獣は森に帰って行った。
「起きた?おはよう」
寝ぼけ眼の僕の目の前に娘さんがいる、昨日のことがあって一緒に寝たけど、先に起きてたみたいだ。
「おはよう」
体を起こし、ベッドから降りる。
「皆んなもう起きてリビングにいるから行こ」
娘さんに急かされて向かう。
リビングに着くと、おじさんと弟さんが座って何かを飲んでいた。
「起きたか、何があったかは聞いている、話すからお前らも座れ」
言われるままに椅子に座る。
「まずはすまないな、俺のゴタゴタに巻き込んでしまって」
おじさんが僕に頭を下げてくる。
「そんな、おじさんに謝られるような事じゃないです」
「お前さんを預かってる身としてはそうはいかない、すまなかった」
僕が慌ててるのを見てか。
「うん、今のでその事は置いといて、獣が知りたがってた死骸が何処にあるかの話をしようか」
弟さんが間を取り持ってくれた。
「あぁ、俺の家の畑近くに埋めてある、憎い相手といえど死んだからには葬ってやったよ」
あの日僕が寝た後にでも埋めたのかな?
「たぶん埋めた場所のことも聞かれるだろうし、一度家に帰らないとな」
「なにも兄さんが行かなくてもいいじゃないか、僕が行ってくるよ」
「いいや俺が行く、万が一何かあっても俺ならなんとかなる」
「その足でどうするというんだい?」
2人の言い合いが激しくなる、今から殴り合いの喧嘩を始めそうでヒヤヒヤする。
「2人とも落ち着いてよ」
娘さんが2人の間に入るが、収まりそうにない。
「だいたいお前は」
今の話と関係ないことまで話題に持ち出し、更に言い合いは激しさを増す。
どうしたらいいのか分からず泣きそうだ。
「いい加減にして!」
娘さんがそう叫ぶと娘さんの角が光だし、電気の様なものが2人に直撃した。
「痺れるからそれをやめろー」
「じゃあもう落ち着いてくれる?」
「わかったからやめてくれー」
光が収まると2人に当たっていたのも消え、2人は静かに椅子に座り直した。
「その歳でもう魔力を操れるとはな」
「僕たちは苦手だからね、妻に似て優秀なんだ」
「私のことはいいから、どうするか決めましょう」
…魔力ってすごいんだな。
「まぁ心配してくれるのはありがたいが、この件は俺がなんとかしないといけないからな、だから行かせてくれ」
「…わかったよ」
弟さんが折れ、ようやく話がまとまった。
「おじさん、僕も一緒に行くよ」
「それは…いや、お願いしてもいいか?」
「うん」
僕は力強く頷いた。
5
朝食を食べ身支度を済まし、皆んなに見送られながら僕達は街の外に向かう。
門を潜り抜けるとそこには獣が待っていた。
「何となくだが今来ると思って待っていたがやはり来たか」
自分の勘が当たったのが嬉しいのか尻尾を振ってるのが見える、意外とお茶目な性格なのかな?
「そうか、待たせたな。それじゃあ行こうか」
おじさんは獣に背を向け前を歩き出す、不用心な気がするが気にしてないのかな。
「待て、まさかその速さで向かうつもりか?」
「しょうがないだろ、この足じゃこれが限界だからな」
おじさんはズボンの裾を上げ、義足を見せる。
「それだと目的地までどれくらいかかるんだ?」
「ざっくりだが3日もあれば着くんじゃないか?」
獣は口を開けどこか遠い目をしている、これは何かを考えてる顔なのかな?
考えがまとまったのか元の表情に戻り。
「しょうがない、今回は背中に乗せてやるから早く乗れ」
獣は伏せの体勢になる。
「そりゃありがたい」
おじさんは僕を最初に乗っけ、その後ろに乗っかる。
獣はすんなりと立ち上がり。
「少し重いがいいだろう、それじゃあ走るから道を教えろよ」
その瞬間獣は風を切る様な速さで走りだす、僕が飛ばされそうになるのをおじさんが後ろから支えてくれる。
かなり早いと思っていたおじさんの走りに追いつくだけあって速すぎる、目を開けてられない。
「もう少し行ったらそこの道を右に曲がれ」
おじさんは平気なのか淡々と指示している、僕は吐きそうになるのを我慢し、無事に目的地に着くことを祈ることにした。




