表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

僕と獣

おじさんは外に行ってる、今外がどうなってるか確認しに行くのは怖いしな。

息を潜め獣が去るのを待つことにする。

ただ残念なことに、獣の声は家に近づいてきてる気がするな。

音を立てないように静かに奥の部屋に移動し始める。

万が一を考えておじさんのナイフを持っておこうと思ったが、僕には重すぎて持ち運べそうにないな。

しょうがないのでカボルの種を取った道具を持っておく、何か手に握っておくだけで少しだけ気が楽になるが。

怖い。

それでも怖いものは怖い。

声の大きさ的にかなり大きな獣だと思う、家まで来たらどうしよう?

恐怖で涙が出てくる、声を出さないように片手で口を塞ぐ。

獣が今までよりも大きな声で鳴き始めたと同時に。

「どぉりゃぁあ」

おじさんの叫び声が聞こえてきた。

獣とぶつかり合っているのか鈍い音が響く。

「ちびすけ絶対に俺がいいと言うまでドアを開けるなよ!」

おじさんの声で少し落ち着きを取り戻す、涙も止まっていた。

「ぶっ殺してやるからなこのクソやろうが!」

興奮しているのかおじさんの口調がいつもより荒々しい、獣なのかおじさんなのかわからない叫び声が響いている。

どちらがいま優勢なのだろうか?、肉を殴る音、骨が軋むような音、おじさんが負ける訳ないけど不安になる。

「ウオォォォ!」

何かが砕けるような音の後、巨体が倒れた音が聞こえてきた。

勝ったんだよね?、おじさんの声がしないと不安になる。

「終わったぞ、ドアを開けろ」

よかった勝ったんだ、安堵してドアを開ける。

目に入ってきたのは、血まみれで倒れたおじさんの姿と。

血まみれで大きな口を大きく開けた、おじさんと同じくらい大きな犬のような獣がこちらに歩いてきていた。

「いた」

獣がおじさんの声で喋っている、今聞こえてたのも獣が真似して喋っていたのか、口元は血が混じった涎を垂らしながらコチラから視線を逸らさない。

「おじさん?」

倒れているおじさんに反応がない、死んでしまったのか。

「大丈夫、お前もすぐだ」

怖い。

助けて。

ママ、パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃん、神様、おじさん。

死にたくないよ。

「嫌だ、助けて」

「ダメ」

獣が僕に飛びかかろうとした時。

「まだだ」

おじさんが獣の尻尾を掴み、後ろに放り投げた。

よかった、おじさんは死んでなかった。

「俺がいいと言うまで開けるなと言ったろう」

僕の前に立ち、頭を軽く撫でてくれる、おかげで涙が止まった。

「待ってな、すぐ片付ける」

おじさんは再び獣と睨み合い、構えをとる。

「かかってきなクソやろう」

獣が咆哮あげると共におじさんに飛びかかる、同じくらいの大声でおじさんも拳で迎え打つ。

おじさんの拳に合わせて頭を逸らせた獣は、そのまま腕に噛み付く、引きちぎろうとしてるのか顔を大きく振り始めた。

痛みで苦痛の表情を浮かべるが、噛まれてない方の手で首元を掴む。

首を絞められ焦ったのか前足でおじさんを殴打するが、おじさんは動かない。

苦しさに耐えれなくなったのか獣は口を離し逃げようともがくが、おじさんの手は離れない。

「ちびすけ、その手に握ってるのを俺に寄越しな」

言われるがままおじさんに向かって道具を投げる、おじさんはそれを掴むと。

「これで終わりじゃい」

頭に突き刺し、横に捻った。

言葉にならないような声をあげた獣は、そのまま地面に倒れた。


2


「終わった…やっと終わった」

おじさんはフラフラとした足取りで家に入る、後を追い家に入ると、おじさんは床に倒れていた。

「大丈夫ですか?」

息はしてるが、獣につけられた傷から血が流れている、何かで止血しないと。

買ってきていた布を取り出し、流血が酷い所に巻き付けていく、お願いだからこれで止まって。

「おじさん、死なないでください」

非力な自分が嫌になる、おじさんには助けられてばっかりだ。

声をあげて泣いてしまった僕に、おじさんは頭を撫でてきた。

「泣くなちびすけ、まだ死んでねぇよ」

「おじさん!」

「すまないが外の倉庫から薬箱を取ってきてくれないか?、薬と書いてあるからわかるはずだ」

家の隣にある倉庫には入ったことがなかったけど、急いで行ってみよう。

「わかった、待っててね」

涙を拭き、早足で倉庫に入る。

倉庫の中は見たことのない物で溢れている、薬箱はどれだろうか?

薬と書いてあると言ってたけど、箱が汚れているので識別ができないので、汚れを取りながら1つ1つ確認していく。

これも違う、これも、これも違う。

拭いては戻しを繰り返すうちに、1つの箱を落としてしまった。

箱の中から出てきたのは、知らない魔族の女性と子供とおじさんが描かれた絵と、小さな玩具のような物が出てきた。

もしかしておじさんの家族なのかな?

でも今は1人で暮らしてると言ってたし…。

気にはなるが今は薬箱の方が先だ。

落ちたものを箱に戻し、次の箱に手を伸ばす、これが薬箱だ!

薬箱片手に急いでおじさんの所に向かう。

「ありましたよおじさん」

先ほどまで倒れていたおじさんは床に座っていた。

「よくやった、それをこっちにくれ」

おじさんは片手で器用に箱を開け、緑色の液体が入ったガラス瓶を取り出し、蓋を取ると一気に飲み始めた。

「それは何の薬なんですか?」

「これは魔力増強剤、濃縮された魔力で一時的に身体の治癒能力を高める魔力を持つものしか飲めない栄養剤みたいなもんだ」

痛みが引いたのか怪我した方の肩を回している。

「かなりやられたからな、医者に見せないと駄目そうだな」

薬箱から無色の液体が入った瓶を取り出し、傷口にかけ始める。

「これは消毒液、臭いがやっておかないとな、そんで次にかけるのが痛み止めだ」

僕が聞くと思ったのか説明してくれる、薬をかけ終えると。

「こっちの傷の方も布巻いてもらっていいか?」

おじさんが指差した所に布を巻いていく。

「今日は疲れた、明日また街に行くぞ」

「はい」

布を巻き終えるとおじさんはベッドに倒れ、いびきをかきはじめた。


3


早朝獣の死体を片付けようと外に出るが、死体が無くなっていた。

おじさんが死んでいるかの確認はしていたので、自分でどっかに行ったとは思えない、他の獣が持って行ったのだろうか?

おじさんも大して気にしてないみたいだから、いいのかな?

おじさんの肩に乗り急いで街に向かって走り始める、念の為にと色々な薬の入ったバッグを持たされたけど流石に3回目だからそんなに酔わないといいな。

「今日は休憩無しで行くから気合いいれろよ」

…酔わないといいな。

綺麗な木々の中を走っていると、遠くから声が聞こえてくる。

それは昨日の獣よりも声色が高く、怒りに満ちた咆哮が木々をつんざき聞こえてきた。

「おじさん、近づいてきてるよ」

「昨日のヤツの家族か?この場所だと戦いづらいから今は逃げるぞ」

おじさんの足が昨日よりも早くなる、それと同じように獣の声も近づいてきているのがわかる。

遠くに聞こえてたはずの声も、気がつけば後ろの方まできていた。

木を引っ掻く音、草を引き裂く音、空を切りながらも殺意に満ちた声をあげる獣の姿が見える、追いつかれてきた。

おじさんの予想通り、昨日の獣よりも一回り小さな獣が追いかけてくる、このままだと後ろから飛びかかってきそうだ。

「もう襲ってきそうだよ」

「わかってる、街まで続く大通りまで出たら引くと思うから逃げ切るぞ」

おじさんと獣の追いかけっこは、徐々に距離を縮められ、やがて獣の牙がおじさんの足を捕らえた。

足を噛まれ地面に倒れそうになると、僕を掴み覆い被さるようにして倒れる。

獣の唸り声と、何かを食べる様な音が響く。

「大丈夫だ、俺が守ってやるからな」

「でもこのままじゃおじさんが」

「大丈夫だ」

不安がる僕を宥めるようにそう言うが、かなり絶望的な状態に変わりはない。

何か打開策はないか。

考えろ。

考えるんだ。

…そうだ。

渡されていたバッグを漁り、青色と無色の薬を取り出し。

「少し待っててね」

「何考えてるんだ、やめろ」

おじさんの静止と腕を潜り抜け、獣の前に立つ。

僕が目の前に立っていることに気づいた獣は、食べることをやめてコチラを睨みつけてくる。

怖い。

だが、今更もう遅い。

覚悟は決まった。

獣が大きな口を開け、僕に飛びかかる、その瞬間僕は蓋を開けた薬を獣の顔にかける。

青色と無色、消毒液と苦い薬だ。

遠くからもおじさんの存在に気づいていたから、かなり敏感な嗅覚をしているはず、そこに強烈な匂いの消毒液と味わったことがないような強烈な苦味を味わえば。

獣は僕に触れることなく、高い声をだしながら茂みに走って行った。

「…よかった」

その場に座りこんでしまう、しばらくは戻ってこないといいけど。

「よくやったな」

おじさんも体勢を変えて僕の目の前に座る。

「お前がここまで勇敢だと思ってなかった、礼を言うぞ」

「そんな、いつも助けてもらってるのは僕なんですから、今回も庇ってくれてたじゃないですか」

「それは大人だからだ、まぁいい、とりあえず薬をくれ、早く街に向かうぞ」

バッグを渡し、おじさんは色々な色の薬を飲んだり足にかけたりした後。

「もう走れそうにないから歩いて向かうぞ、自分で歩けるか?」

「はい」

周りを警戒しながら歩き始めた。


4


幸いにも獣に追撃されることもなく、街まで辿り着いた。

怪我を見た門番の魔族が肩を貸してくれて、無事にお医者さんの所についたが。

「残念ですが、この怪我では足は切断しないと駄目ですな」

腕は治療でなんとかなるみたいだが、足は神経も骨もズタズタで、もう治らないらしい。

おじさん自身も察していたのか。

「そうか、なら切ってくれ」

あっさりと了承した。

「そうですか、なら今から始めましょう」

お医者さんに連れられ奥の部屋に移動する、それに着いて行こうとすると。

「お子さんかな?、君は終わるまで外で待っててくれ」

お医者さんに止められ、外で待つことになった。

外に出ると見覚えのある魔族の親子がこっちに走ってきてるのが見える。

「おーい」

女の子が手を振ってる、薬屋の弟さん達だ。

「兄は…兄さんは無事なのか?」

息を切らしながら弟さんは尋ねてきた。

「大きな獣との戦いで手と足を怪我して、残念ながら足は切断するみたいです」

「そうか…足は残念だが、生きているなら…良かったよ」

落ち着いたのかその場に座りこんでしまった。

「買い物に来たお客さんに聞いて急いで来たもんね、大丈夫パパ?」

「あぁ」

大きく深呼吸して再び立ち上がり。

「まだ時間がかかるだろうし、君も家で一緒に待たないか?」

「そうしなよ、おしゃべりでもしよ」

「はい、ありがとうございます」

誘われるまま薬屋さんで待つことにした。


5


薬屋さんに着き、奥の居住スペースに案内される。

「よかったらコレ飲んで」

弟さんにコップを受け取り一口飲む、丁度いい苦味のあるお茶みたいだ。

「それで、何があったのか聞いてもいいかい?」

弟さん達に昨日からここに来るまでにあった事を話す。

「そうか…特徴を聞く限り、兄さんが探していたヤツだったんだな」

「探していたヤツとは?」

倉庫に保管されていた絵を見るになんとなく察してしまうが、聞いてみる。

「…本当は本人に許可もらわなきゃ話せないけど、なんとなくわかってそうだからいいか」

「君が考えてる通り、あの獣は兄さんの家族の仇だったんだ」

思っていた通りだ、通りでおじさんが異常に興奮してたんだ。

「元々あの森に危険な獣が居なかったのだけど、いつの間にか住み着いていて、兄さんが街に出かけている時に…ね」

「…そうですか」

悲しい話に僕と娘さんの啜り泣く声だけが聞こえる。

「ただ仇はとれたが、話を聞く限りじゃ次は兄さんが獣の親の仇になったみたいだね」

最初だけ見れば獣が悪いと思うが、向こうからすれば親を殺した仇、憎しみの鎖が連なってしまった。

「兄さんを殺すまで諦めないだろうし、やはり獣を退治するしかないか」

獣を退治する…本当にそれでいいのかな?

何か他の解決策がないかな?

何か…。

「まぁ考えるのは後にしよう、今は兄さんの手術の無事を祈ろう」

おじさんは立ち上がり。

「そろそろ行こうか」

再びお医者さんの所に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ