僕は生きたかった
現代でも数多くある奇病、その人にしか現れない病状の場合どう対処すればいいのか?
前例が無いのでは対策しようもなく、原因すら掴む事ができない。
皆誰しもが思う、ただ普通に生きたいと、生きていてほしいと。
神に祈りを捧ぐ、お願いしますと。
そんな神は時に手を伸ばし、時に気付かぬこともあるかもしれない。
ベッドの上で天井を眺める、いつもと変わらない白い天井だ。
手を伸ばそうにも腕についた管が邪魔をする、僕は産まれてからここしか知らない。
ベッド横にある机の上ににあるカレンダーを見る、明日は僕の9才の誕生日だ。
パパとママとお兄ちゃんもお姉ちゃんも一緒に祝ってくれるって言ってたから楽しみだなぁ、誕生日には特別にケーキも食べる事ができる、それだけでもうニコニコしてしまう。
…早く明日にならないかなぁ?
時計に目を向ける、まだ朝の6時前、もうすぐしたら採血とご飯の時間か。
僕は産まれつき何か病気にかかっているらしい、詳しいことは誰も教えてくれないけど早く良くなってお家?に行ってみたいな。
部屋のドアを叩く音と共に看護師の人が入ってきた
「おはよう、今日も早起きだね、ご飯の前に採血しちゃおうか」
慣れた手つきで僕の腕に針をさす、いつもやられてるけどやっぱり刺される所を見るのは怖いな。
「それじゃあまた後でね」
手を振りながら部屋から出ていく、今日のご飯は何かな?
僕の1日はいつも同じだ、この後朝ごはんを食べた後ママが来るまでお昼寝をする、ママは僕が起きるまでいつも見守ってくれているらしい、僕としては起こしてくれてもいいのに。
お昼に2回目の採血して、お昼ご飯をママと一緒に食べる、ママと一緒だとより美味しく感じれる。
夕方にはお兄ちゃんとお姉ちゃんと時々パパが来てくれる、毎日来たくても面会時間?が間に合わないらしい。
お兄ちゃんもお姉ちゃんも高校生だから、僕の知らない事をいっぱい教えてくれる、この間はアニメっていうのを観せてくれたっけな。
夜には3回目の採血、その後みんなお家に帰ってしまう、この時間が1番寂しい、でも明日も来るからねとみんな言ってくれるから大丈夫。
夜ご飯もしっかり食べて、歯を磨いてもらったら後は眠るだけ、これが僕の毎日。
今日もそんな1日がまだ始まったばかりだ、さて朝ごはんはまだかな?
…それにしてもなんだか今日は眠いな、ご飯来るまで少し寝てようかな。
重い瞼に逆らえず、僕の意識は遠ざかっていった。
2
私はいつも通りに入院患者達の体調確認をする為の巡回を始める、何かを見落としてしまう訳にはいかないのでいつも緊張感がつきまとう。
幸いにも今日も患者の皆様は特に平気そうなので、ホッと胸を下ろした、朝の巡回後朝食を運び始めるのを手伝う為一息だけつき歩き始める。
外に出る事ができない患者さんにとっては食事は毎日の楽しみになっているので毎回時間通りに提供するので少し忙しいけど、少しこの時間が好きだ。
配り歩いていると奥にある部屋からアラーム音が鳴り響く、あそこの部屋には私がここで働き始める前から入院している子供がいる。
急いで病室に駆け込む、朝には正常だった脈拍が下がり過ぎている、アラーム音を止め主治医に連絡をいれる。
「203号室の患者が緊急事態です、至急こちらまでお願いします」
3
病院から連絡があった私はパパに連絡と子ども達の学校に連絡をお願いして、急いで病院に向かっている。
今までも何度かあったが、何度あっても慣れる訳がない。
「神様お願いします」
1人乗る車の中で何度も呟く、まだあの子を私達と一緒にいさせてください。
病院に着き、看護師に案内された場所は手術室、私は扉の前で祈ることしかできない。
お願いします、お願いします、お願いします。
私のわがままと言われてもいい、まだ私はあの子と一緒にいたい。
お願いします、お願いします、お願いします。
…何時間祈っていただろうか、灯りが消え先生が出てくる。
「お母様ですか?」
震える声で返事を返す。
先生の次の言葉が怖い。
「…申し訳ございません」
私の視界はぐにゃりと曲がり、私を呼びかける声が遠くに聞こえながら、意識がなくなった。
4
校内放送で呼ばれた俺達は今自転車で病院に向かっている。
弟の身に何かあったらしい、先生から聞いた俺達は居ても立っても居られず力の限り自転車を漕いでいる。
「今回も大丈夫だよね?」
妹が不安そうに呟く、無理もない、何度あっても不安が過ってしまう。
「大丈夫さ、俺達の弟だ、今頃母さんと一緒におしゃべりでもしているさ」
内心の不安は拭えないが、妹の前で俺まで不安そうにしていられない。
学校から病院までは40分かからない位だが、もう少し早く着けそうだ。
病院が見えてきた、不安を隠す為に色々と考える、今日は何の話をするか、何のアニメを観せるか、何の…。
受付を済まし弟のいる病室に向かう途中、不安そうな妹に学校で買ってから飲んでいなかったお茶を渡す。
「少し落ち着け、お前が不安そうな顔してると心配かけるだろう?」
妹は手に取りお茶を一口飲み、少しだけ落ち着いた顔になる。
「ありがとう、少し気が楽になったよ」
203号室の目の前に着いた、ドアをノックして部屋に入る。
目に入ったのは眠っている弟と、俯いている母さんの姿だった。
5
兄の背中越しに見えたのは、眠っている弟、だが違和感がある。
弟の回りにいつも置いてある機械の類が一つもない、考えたくないが理解してしまう。
固まっている兄の横を通り弟の顔を覗き込む。
眠ってるようにしか見えない。
「もう…無理だったんだって」
お母さんが静かに震える声で喋り出す
「もう…どうしようもなかったんだって」
お母さんの目は虚になっている、もう涙も枯れてしまったのだろう。
兄は弟の横に立ち静かに泣いている、私の目からも涙が溢れてくる。
いつか退院したら色んなところに連れて行きたかった。
美味しいものを食べさせてあげたかった。
一緒に料理を作ったり、誕生日にはケーキを作ってあげたり、クリスマスも正月も一緒にいたかった。
それが全てなくなってしまった。
私の色んな思いが涙に溶けて流れていく。
止まらない、止められない、この涙はきっと枯れるまで流れ続けるだろう。
6
妻から連絡が入り、会社を早退し病院に向かい始める。
上司のお子さんは若くに病気で亡くなっており、会えるうちにもっと会えばよかったと後悔していると聞いた事がある、そのことも相まってか何度も早退を嫌な顔せずさせてくれる。
電車を乗り継ぎ、駅からタクシーを捕まえ病院に向かってもらう。
生まれつき奇病が体を蝕んでおり、何度もダメかと諦めそうになってはいたが、あの子はその度に回復してきた、毎回医者には奇跡と言われたが、それなら病気じたい綺麗に治ってほしい。
子ども達も末っ子を可愛がっているが、あの子にかまってばっかりで自分たちの今を蔑ろにし過ぎてはないか?。
もちろん末っ子のことも大事だが、できればあの子達の青春も今しかないのだから少し複雑だ。
何度願おうが完治はせず、無理やり生かしているこの状態を後何年過ごさせなければいけないのか、あの子もこの状態でも生きている事を望んでいるのか、親として最低な考えかも知れないが考えてしまう。
病院に着き、病室のドアを開ける。
心の中ではいつも色々と考えるが、この時だけは一つだけ願ってしまう、扉の向こうで子ども達と妻が楽しそうに何かをしていることを、その体には何も無く、楽しそうに走り回っている姿を。
だが、現実はどうだ。
妻はうずくまり、子ども達は泣いている、そうか、今回はダメだったのか。
私は気づいてしまった、ようやく肩何が降りたと思ってしまった自分に。
自分への怒りと今のこの状態に涙が流れ出す、うずくまる妻を抱きしめ
「頑張ったな、みんな頑張ったな」
大人に、いや父親になってから1番泣いた。
7
気がつくと僕は知らない椅子に座っていた。
さっきまで寝ていた部屋ではない、何処なんだろう?
「気がついたかい?」
前を向くと知らない男の人が座っている、その人は僕の方に向かって歩いてきた。
「残念ながら君は先ほど死んでしまったんだ」
僕の肩に手を置かれる、温かく不思議な温もりを感じる。
「ほら、そこに立ってごらん」
立ってごらんと言われても、僕は神経?がどうのこうので立ち上がれたことがない、そんな僕の手を引き椅子から下ろされる。
転ぶと思っていたが。
「あれ?、立ててる」
みんなみたいに立っている!、歩けるんだ!。
「さて、ここで君に選択肢を与えよう」
男の人は指を鳴らすと、2つの鏡が現れる。
「片方は生まれ変わることができる来世の鏡、もう片方はこことは違う世界に転生する鏡、君はどちらを選ぶかい?」
正直言ってることがよくわからない。
「えっと、僕はどちらか選ぶとどうなるの?」
「新しく生まれ変わるから、今までのことは全て忘れて楽しい人生をおくることができることを約束しよう」
「僕は僕じゃなくなるの?」
「まぁそうともいうな」
…嫌だ。
「あなたは神様なの?」
「そうだよ」
神様ならなんでもできるのかな?。
「お願いします、僕を生きかえらしてください、明日誕生日なんです、お願いします」
ママとパパとお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒にいたい、僕は僕でいたい。
「最初に言ったが君は死んでしまったんだ、残念だが生きかえらすことはできないよ」
いつも苦しい思いをした、辛い思い出も多い、だけどみんながいてくれた、なのにお別れも言えてないのに。
「僕はもっとみんなと一緒にいたかった」
涙が溢れてくる、今の僕は泣くことができる。
「…わかった、だが困難な道になるがそれでもいいのか?」
困難?確か大変とかの意味だっけ?、それでも何かあるならかまわない。
「お願いします」
「では第3の鏡だ、君は今のまま異世界に転生する、そこでこの世界を破滅しようとしている者がいるので、それを止める事ができれば君が死ぬ少し前に生きかえらしてあげよう」
「ただし、本来異世界に転生するものには特殊な力を授けるのだが、それは無しだ。もちろんそこの異世界で死ねばそれまでだが…それでもいいのか?」
「生きかえることができるなら、それで大丈夫です」
神様は驚いた顔をしてた、少し脅したら諦めると思ったのにと小声で呟いてるのが聞こえてくる。
「まぁいいだろう、だがそのままだとすぐに死んでしまいそうだからな、特別に1つだけ力を授けよう、どんなのがいいんだ?」
特別な力、アニメで観たみたいに炎を操ったりできるようになるってこと?、好きなものを選ばしてくれると言われても、中々思いつかない。
特別な力…特別。
「言ってもいいですか?」
「なんだね?、色んな魔法が使えるようになるのとかオススメだけど」
「友達が、友達がいっぱいできる力が欲しいです」
今まで僕には友達なんていなかった、お兄ちゃんやお姉ちゃんの話を聞いて僕も願っていた。
僕にも友達が欲しい。
神様は不思議そうな顔をしていたかと思えば、笑顔に変わった。
「そうか、わかった、なら君には友達が100人できる能力を与えよう」
神様は僕の目の前に手をかざす、まばゆい光がでたとおもったら、いつのまにか目の前には本が浮かんでいた。
「これは友達本とでも言っておこう、この本にはコインが100枚入っている、君と特別な友達になった者にコインをあげるんだ。その友達は時に君のピンチにコインを通じて助けてくれるかもしれない、だが友達でなくなってしまうとコインは使えなくなるから気をつけるんだ」
本を受け取り中を開いてみる、綺麗な小さなコインが1ページ毎に張り付いている。
「それじゃあそろそろいいかな?」
神様に誘導され、僕は鏡の目の前に立つ。
入るその前に本を開き、コインを1枚取り出し。
「お願いします神様、僕の最初の友達になってくれませんか?」
神様に差し出す。
「いいだろう、だがそれだと99枚になってしまうから特別なのをあげよう」
神様は手を握り、その手を広げるとそこには不思議な色のコインがある。
「これを持って行きなさい、特別な能力は無いが、君との友達の証だ」
神様のコインは光り輝き僕の本に吸い込まれていく。
「それと最後に言い忘れていたが、本は取り出したくなったら心の中で出てこいと考えるんだ、しまいたくなったらしまいたいとでも考えればいい、とにかく無くさないようにな」
言われた通りに考えてみると、僕の手から本は消えていた。
「それじゃあ今度こそ、行ってらっしゃい、君の帰りを待ってるよ」
僕は自分の足で鏡に向かう。
「行ってきます!」
僕は再び帰る為に進んだ、まだ見ぬ新たな世界に。




